米国による「北朝鮮先制攻撃」は藻屑と消えた もはや「レッドライン」は存在していない

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また、米政府はこれまで在韓米国人約20万人に対する非戦闘員退避活動 (NEO)の発令はおろか、韓国への渡航について警告などは出していない。米国の北朝鮮攻撃が本気ならば、今すぐにでも退避勧告を出すはずだ。ただし、米国がいざ退避勧告をだせば、北朝鮮がそれを軍事攻撃の前触れと受け止めて、逆に先制攻撃に走りかねないリスクも浮上する。

このほか、米国が北朝鮮攻撃に本気ならば、ブラックアウト(報道管制) や米海軍空母機動部隊の朝鮮半島周辺への集結、さらには三沢、横田、嘉手納の各米空軍基地への戦闘機の集結なども欠かせない。しかし、こうした事態は今春以降、一向に起きていない。

「圧力と対話」が唯一の進むべき道

ジェラルド・カーチス米コロンビア大学名誉教授は筆者の取材に対し、「私たちは核兵器を保有した北朝鮮を受け入れ、同国の核ミサイル計画の凍結や抑制について話さなくてはいけない。圧力と対話が唯一の進むべき道だ。これはうまくいかないかもしれないが、他に策が何もありえないことは確実だ」と述べた。

筆者が東京特派員を務めるIHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、北朝鮮が8月29日の火星12が地上に与える危険と政治的影響を低減するために、北海道の襟裳岬の上空をわずかに通過する形で発射、日本の領土を越える時間をできるだけ少なくしたとみている。北朝鮮は今後も同じような飛翔コースを利用する可能性が高い。

米国は自国の領土や日韓といった同盟国が攻撃を受けて、個別的、集団的自衛権を発動しない限り、北朝鮮と戦争をするつもりはない。北朝鮮も米国からの先制攻撃を受けない限り、実際に日本や韓国、米国などを攻撃する意思はない。「水爆実験」の成功を受け、平壌では祝賀行事が大々的に行われている。北朝鮮にとって米本土を狙う核ミサイル開発は、カリスマ性に欠ける34歳の若き独裁者の権威付け、実績作り、箔付けが現在のところ主眼になっていると筆者はみている。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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