米の鉄道財政難「NY駅緊急工事」で浮き彫りに 保線できずトラブル続発、政権は無反応

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ペンステーションの工事を告知するボード(筆者撮影)

かなり大掛かりなプロジェクトとなったわけだが、6線に関して路盤を再構築してメンテナンスの簡単なスラブ軌道にするなどの本格的な改修がされたかというと、そうではなかった。要するに主要な作業としてはポイント交換だけであり、そのポイントに関しては、油のピカピカ光る新品が据え付けられていたが、直線部分は軌間の修正がされただけで、バラストの交換もされていない部分があった。

7月の時点では「どうせ期日までには終わらないだろう」とか「どこまで地獄が続くんだ?」といった報道が目立ったが、ふたを明けてみれば8月の20日ころには作業は終了しており、28日には公式に完工が宣言され、各社は9月5日からの正常ダイヤ復帰を発表したのである。どうやらアムトラックとしては、工期が遅延しては世論に批判されるので「スケジュールを長めに吹っかけて」おいた一方で、カネがないので作業は最小限で済ませたフシがある。

大規模な鉄道インフラ更新は遠く

ところで、その費用だが、LIRRとNJTは被害者という立場であり、あくまで負担は拒否している。一方のアムトラックはドナルド・トランプ政権の予算削減を受けて、ただでさえ「火の車」という状況が続いている。そんな中、NYのクオモ知事(民主党)とニュージャージーのクリス・クリスティ知事(共和党)は連名で、連邦政府の特別支援を要請したが、トランプ政権は反応を示していない。

アムトラック、NJT、LIRRに関しては、この他にもペン駅を西へ移動してNY郵便局と一体化した最新のターミナルへと再開発する動き、そして現在複線1セットしかないハドソン川底トンネルをもう一本掘る計画など、州のレベルでは大きな計画を進めようとしている。トランプ大統領は「全国のインフラ再整備」を公約として掲げていることもあり、その枠組みの中で鉄道インフラの抜本更新にも予算がつく可能性があるからだ。

だが、放置すれば脱線事故が続くという状況での緊急保線工事にすら、財源がつかないという現状では、大胆な鉄道インフラ更新は程遠いと言わざるをえない。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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