築地市場再開発は「時間切れ」になりかねない このままでは「都の守旧派役人」の思うつぼ

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山口:結局、6月に小池さんが打ち出した方針は、PTの後者の提案をかなり取り込んだものだったわけですよね。

竹内昌義(たけうち まさよし)/建築家。東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科教授、 建築デザイン会社「みかんぐみ」共同代表。建築デザインとエネルギーを専門とし、国内で数々の先進的建築事例を手掛ける。2016年から市場問題プロジェクトチームのメンバーに就任(編集部撮影)

竹内:そう言えますね。われわれがいちばん重要視していたのは、築地の「機能」を残すことです。築地の機能で特に重要なのは市場で実際に仕入れをしている仲卸(卸売業者が調達してきた魚などを、セリで買い付けるのが仲卸業者。築地には約500軒の仲卸が出店している)の機能です。

仲卸業者の経営規模は、さほど大きくない人たちが多いのですが、彼らこそ東京の食文化を支えている「食材のプロ」です。彼らの「目利き」の力が東京の寿司などの名店を支えているし、「築地」の名を高めてきたと言っても、言いすぎではありません。築地ほど目利きがそろった市場は、世界中探してもほかにありません。

今回、小池都知事が打ち出した方針なら、築地の市場機能も残せるし、仲卸業者へのダメージも最低限で済むと思います。そこは高く評価したいと思います。

肝心の仲卸業者が1つにまとまってくれない

ぐっちーさん(本名:山口正洋、やまぐち まさひろ)/投資銀行家。商社や証券会社、投資銀行などを経てブティック型の投資銀行を開設。金融・不動産に造詣が深く、企業のM&Aから地方再生まで幅広く案件をこなす。一方「ぐっちーさん」のペンネームで東洋経済オンラインなどに執筆するほか、有料メルマガ(会員約1万人)も配信(撮影:梅谷秀司)

山口:しかし、豊洲に移転すると、引っ越し費用に加えて、冷蔵庫など設備の更新も必要になります。経営体力のない仲卸業者は廃業せざるをえないといわれていますよね。

竹内:ええ。ただでさえ仲卸業者の数は、どんどん減ってきている(約25年で半分程度に減少)のに、豊洲に移転したら一気に数が減ってしまうかもしれません。それをどうにか最小限で食い止め、東京の食文化を守ろうというのがPTの基本姿勢です。

ところが、そのリスペクトすべき仲卸業者さんたちが、市場移転問題が膠着する原因の一つになってしまっているんです。

山口:えっ? どういうことですか?

竹内:先ほど触れたように、われわれPTは2つの提案をしていたわけですが、工期や費用についても「築地で営業を続けながら改修した場合には工期7年、878億円の費用」が、「豊洲に移転して改修した場合には工期3年、778億円の費用」がかかる、とそれぞれ試算していました。

しかし、小池都知事の発表を聞いて、もともと豊洲への移転に反対していた仲卸の一部の業者さんたちは、「PTは築地で営業しながら改修できるって言っていたのに、それを『豊洲に移転してから築地を改修』というのか。それでは話が違うじゃないか」というのです。

試算でも示したとおり、改修期間をできるだけ短くしようとするならば、いったん豊洲に移転して築地を改修したほうが、はるかにメリットがある。だけど仲卸業者さんの一部は、もともと移転に反対だから、「いったん豊洲に連れていかれたら、俺たちはそこで野垂れ死んでしまうから行きたくない」と、いわば「徹底抗戦」の構えに入ってしまったのです。でも、ただの徹底抗戦では時間だけが過ぎていくだけで、いわばもったいない。たとえば豊洲に移転して築地に戻ってくるための往復の引っ越し代だって、ある程度は面倒を見てもらえるように、都と交渉すればいいと思うのです。

一方、もとから豊洲移転に積極的だった人たちは、「豊洲へ移るのはいいけれど、新市場には都合が悪いところもある。だから『ここを直してほしい、あそこを直してほしい』」と、条件闘争にシフトしはじめています。

次ページまとまらず、時間が過ぎていくとどうなるか?
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