築地市場再開発は「時間切れ」になりかねない このままでは「都の守旧派役人」の思うつぼ

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竹内:もちろん、基本設計から諸手続き、土壌や埋蔵文化財などの調査、環境影響評価などの手続きは必要です。しかし、築地での営業を続けながら再開発に5年も7年もかけていたのでは、そのうちに卸売市場法が廃止され、卸売市場そのものがなくなってしまう可能性がある。そうなる前に、築地の再開発に乗り出し、市場機能と仲卸の目利きの力を温存したまま再スタートを切るべきだと思うのです。

山口:卸売市場法が廃止されて中央卸売市場自体がなくなってしまったら、豊洲市場もアマゾン・フレッシュの物流拠点になってしまうかもしれませんよ。

竹内:ありえない話じゃないですよね。

 「このままでは築地市場の再開発は『時間切れ』になる。それでは当初の計画どおり物事を進めたい東京都の一部の役人の思うつぼ」。ぐっちーさんと竹内教授は警鐘を鳴らす(撮影:梅谷秀司)

「日本の最高の食文化を守る」には、何が最善の手なのか

山口:そうなったら、事実上、仲卸の仕事自体がなくなっちゃうよね。その瞬間、僕ら日本人がそれこそ江戸の時代から育んできたすし文化が消滅しますよ。アマゾン・フレッシュが「卸売市場がなくなって残念だから」といって、わざわざ漁師のところに出向いてシンコ(新子、コハダになる前の名称。夏のネタとして江戸時代から人気があったとされる)のように、食べ物としては最高でも、小さくて、量もさばけないような魚をリーズナブルな形で買い付けるはずがない。彼らが扱うのは、極端に言えば、マグロやサーモンの切り身、アジの開きのたぐいのようなものばかりになってしまうでしょう。

仲卸の目利きによっていい魚を仕入れることができているから、おすし屋さんは最高の仕事ができる。そんな事態になったら、間違いなく東京の名店と呼ばれるようなすし屋は、軒並み人気を失って、潰れていきます。やっていけるのは回転ずしくらい。地方なら、地元の漁師と直接付き合いのあるすし屋は、生き残っていけるかもしれないけれどね。

竹内:当の仲卸さんたちに、事態がそれくらい切迫しているということを、理解してくれている人がとても少ないのが問題です。

山口:もし、このまま話が進まなかったら、小池都知事にしてみれば、築地市場が最終的になくなったとしても「築地市場の中の反対派に潰されたから」と主張することもできるわけですね。国政復帰への期待も高いので、任期中に無理をして政治的キャリアに傷がつくようなことは避けようとするんじゃないかな。

竹内:そのようなことも、可能性がゼロだとは言い切れません。しかし、小池都知事は少なくとも現時点では、築地の機能を残しつつ再開発する方針を崩していませんし、乗り気でない都の職員を引っ張って、なんとか計画を進めようとしています。役人とは違う考えを持っていることは間違いありません。仲卸の皆さんを含め、築地市場に携わる人々はそこを理解して、小池都知事と手を組まないと、いつまで経っても事態はよい方向に進みません。

山口:前回の対談でも言ったけど、何しろ築地は銀座の隣の超一等地です。築地の再開発であれば、海外も含め、おカネを出してくれる民間企業やファンドはいくらでもあります。でも、築地の中の意見が一本化していないと、いくら民間といえども怖くて手を出せなくなってしまう。

竹内:同感です。築地を守りたいと思う人たちは、ここで小池都知事と手を組まないと、もう後がなくなってしまう。世界に冠たる東京の食文化をさらに豊かにしていくためにも、そのことに早く気づいてほしいと願っています。

阿部 崇 ジャーナリスト

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あべ たかし / Takashi Abe

1969年福島県生まれ。経済誌記者を経てフリーに。現在は週刊誌を中心に活動中。

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