インフレは歴史的に革命や暴動を招いてきた 井沢元彦と予測する「日本の未来」<後編>

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中原:多くの経済学者が間違っているなと思うのは、まさにそういう庶民の貧困に対する見方です。本来なら、その国の制度や人々の価値観、生活スタイルによって、それぞれ違う見方をしなければいけないはずです。でも経済学者というのは不思議で、世界的に統一した指標で見たがるんですね。たとえば最近、日本の相対的貧困率の高さがよく話題になります。これは国民を所得(等価可処分所得)の高い順に並べて、その中央値の半分に満たない人の割合を言います。

アメリカを見れば「インフレ=善」とはとても言えない

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この指標で見ると、日本は先進国中でアメリカに次いで2番目にひどいという話になる。夫婦2人・子ども2人の4人家族ならば、世帯の年収が300万円程度だと相対的貧困と見なされるのです。しかし、日本でも物価の安い地域で暮らせば、300万円でそこそこの生活はできるはずですよね。

でも、アメリカで同じ4人家族で300万円、仮に1ドル=110円として約2万7000ドルの収入があったとして、日本と同じ生活水準を保てるかといえば、それは無理です。アメリカは日本と比べて物価がとても高いですから。

これまでデフレが続いてきた日本は、ほかの先進国と比べて圧倒的にモノが安いんです。アメリカだけではありません。たとえば今、フランスで軽い朝食を食べたとしても、場所にもよりますが日本円で1500~2000円は取られてしまいますよ。要はインフレかデフレかは人々の生活水準には関係なく、実質的にどちらが豊かなのかという視点が大事だということです。

そういった視点をまったく考慮せずに、経済学者も日本政府も欧米の価値基準にならって「デフレは悪だ」と決め付けてきたわけです。インフレの国アメリカで国民の3人に1人が貧困層および貧困層予備軍であるという実態を見ていると、「インフレ=善」とはとても言えませんね。だから私は、国民生活がよい方向にいくのであれば、インフレでもデフレでもどっちでもいいんです。

井沢:ちなみに明治維新後、新政府が進める廃藩置県に対し、喜んで差し出す藩主がけっこういたんです。差し出せば「県知事」のような地位を得て給料をもらえるから。しかも、これまでの部下も全員リストラできる(笑)。自分だけ再雇用されるという、すごくおいしい話だったんです。

一方、クビになって路頭に迷ったはずの武士たちも、萩の乱や西南戦争などを除いてほとんど反乱を起こしていません。それは、新政府が武士の地位をうまく消去していったからだと思います。

そのきっかけになったのが廃刀令です。それから四民平等を唱えて士農工商の身分差をなくし、断髪令で見掛けも平等にする。そのうえで公務員も自由に採用し、農民や町民も兵役に就かせた。こうして徐々に武士の実質的特権というものをなくしていったわけです。「士族」という言葉だけは残しましたが。

乱を起こしたのは、勝ち組となったはずの西国諸藩の武士たちです。幕府を倒していい地位に就けると思ったら、それは幹部クラスだけで下層の武士は役職に就けず、しかも徴兵制度などによって武士という特権も剝奪され、不満が高まったからです。薩長の上層武士で新政府の役職に就けた者などについては、逆に優遇されて特権が残された。だから不満を持つ武士が西郷隆盛の下に集まり、蜂起して西南戦争を起こすに至ったわけです。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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