三菱地所の地震速報、気象庁より「早い」実力 「首都圏直下型地震」への備えを強化

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ミエルカ防災のシステムは都内では2016年に帝国ホテル(東京都)や羽田空港の国内線ターミナルビルを管理運営する日本空港ビルデングにも導入された。

すでに実績を上げている速報システム

その実績をみると、2016年5月の茨城県南部地震の際に主要動が帝国ホテルに到着したのが地震発生から18.7秒後だった。このシステムでは地震発生後12秒足らず、つまり主要動到着よりも7秒前に速報が出せた。その7秒の間に、エレベーターの停止作業に着手できた。

一方、気象庁の緊急地震速報が出たのは地震発生後16.5秒だったので、主要動到着までの余裕は2.2秒にすぎなかった。

ハイテク工場では、日東電工の豊橋事業所(愛知県)やソニーの半導体子会社、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(本社・熊本県)などでミエルカ防災のシステム導入例がある。

ソニーは昨年の熊本地震で半導体工場が深刻な被害を受けた。気象庁の緊急地震速報が出る前に主要動が到着し、大揺れの前に精密な製造ラインを停止することができなかった。このためラインの損傷が激しくなり、復旧まで3カ月半を要した。その教訓から自前の速報システムを導入することを決めた。

三菱地所は「システム稼働後、大きな地震が発生していないので、どれほど早く知ることができるかどうかはわからないが、気象庁の観測メッシュよりもきめ細かいので、より素早い検知を期待している」(広報部)という。この速報データを活用すれば、高層ビルの場合、ほぼ10階ごとに設置されている非常停止階にエレベーターを止めることができる見通しだ。

このシステムで得られる地震発生情報は、新丸ビル、丸ビル、丸の内北口ビル、丸の内パークビルに提供され、エレベーターの緊急停止に活用される。その他の近隣ビルについては、テナントなどの理解を得ながら対象ビルを広げていく考えだ。

2013年末に政府の中央防災会議がまとめた「首都直下地震の被害想定と対策」によると、多くの人がエレベーターに乗っている正午ごろに直下地震が発生した場合、首都圏で1万7000人がエレベーター内に閉じ込められる可能性がある。多数の高層ビルで同時に閉じ込め事故が発生すると、エレベーターの保守点検会社は手が回らない事態が予想され、長時間にわたって人が閉じ込められかねない。今回のシステム導入でそうした事態が避けられるかもしれない。

また少しでも早く地震速報が伝われば、避難経路の確保や防火への備えに余裕ができたり、大勢が集まったイベント会場などでパニックが起きないような誘導が可能になったりする。

今回、三菱地所は首都圏で7カ所に地震計を置き、ネットワークをつくり、地震情報を共有する仕組みを立ち上げた。自社で地震計ネットワークをつくり、速報体制を築いたのは極めて珍しい。

今後、この速報システムが発展していく可能性もある。ミエルカ防災によると、首都圏の他のビルなどにより多くの地震計を設置し、三菱地所のネットワークとつなぐことができれば、気象庁の情報も活用して、さらに素早くきめ細かな地震速報システムがつくれるという。他の不動産会社やホテルなどでも導入が検討されているもようで、首都圏の地震速報システムのネットワークが広がっていきそうだ。

安井 孝之 ジャーナリスト・Gemba Lab代表

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やすい たかゆき / Takayuki Yasui

1957年兵庫県生まれ。日経ビジネス記者を経て、1988年朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、2005年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017 年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリージャーナリストに。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業 エクセレント・カンパニーからグッド・カンパニーへ』(PHP研究所)など。

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