何のために先進国の首脳は集結したのか

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国際協力の財源は二酸化炭素排出税で調達

三つ目の問題は、科学者と政治家の間のコミュニケーションの途絶である。科学者とエンジニアは、食料増産、病気予防、環境保全といった現代の課題に取り組むために多くの有望な方法を開発している。だがこうした手法は、情報と通信技術の発展によって可能性が高まっており、以前よりも国際的な解決策を見いだし、実施するのが容易になっている。

第四の問題は、G8が国連や世界銀行などの国際機関を無視していることだ。国際機関は国際的な解決を実施する際の希望であるが、政治的支援がない。資金不足で問題を解決できないと、G8から責任を問われてきた。必要なことは、国際機関に明確な権限と責任を与え、成果に関する説明責任を求めることである。

ブッシュ大統領は、米国民の不支持率が70%と過去最高になっているのは米政府が国際社会に背を向けてきたからだということを理解できていないようだ。そのため戦争を始め、経済危機に陥っているのである。他のG8の指導者も、自国で自分たちの支持率が低いのは食料やエネルギー価格の高騰、気候変動と国際経済危機のためだと考えているようだ。こうした問題は一国だけで取り組むことができないものである。

09年1月に米国では新大統領が誕生する。各国の政治家は、この機会を利用して国際協力を活発化させて、自らの政治的な生き残りを図るべきである。政治家は、気候変動や環境破壊だけでなく国連の「ミレニアム開発目標」である貧困や飢え、病気といった国際的な目標に取り組むことに合意すべきである。

こうした目標を達成するためにG8は明確な行動予定を設定し、資金拠出に合意をすべきである。最も聡明な行動は、各国が二酸化炭素の排出に課税し、税収の一部を国際問題解決のために提供することである。政治家は十分な資金を確保して、科学者や国際機関の協力を求めるべきである。政治家は、国連機関を競争相手や国家主権に対する脅威と見るのではなく、国連機関と協力することこそ国際問題を解決するための道であり、自らの政治生命を長らえるカギであると理解すべきである。政治とはもともとローカルなもので、国際レベルでの合意は実行不可能だと嘲笑する人がいるかもしれない。しかし、現在、すべての政治家の政治生命は国際的な解決策を提案できるかどうかにかかっているのだ。

国際問題は深刻化しており、残された時間は少ない。世界は最大の経済危機に向かって進みつつある。今こそG8の指導者に「全員で協力せよ。そうでないと来年のサミットへの出席はかなわないぞ」と声を上げるべきだ。世界の指導者が意味のない写真を撮るためだけに集まっているのを見るのは、当惑を禁じえない。

ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

(写真:日本雑誌協会)

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