中原:1997年の消費増税は、失敗していなかったんです。個人消費は落ちず、実はプラスでした。あるいは実質賃金などの経済指標も、堅調に推移していた。増税に耐えうる環境だったわけです。確かに1998年から不況に突入しましたが、それは1997年11月の北海道拓殖銀行の破綻から始まった金融システム危機が原因だったのです。
しかし2014年は、前年からの円安で実質賃金が大きく下がっていました。この違いを指摘しないのは明らかに間違いです。だから、将来の経済政策に対する見方も間違うわけです。
「当事者になり切る」ことができるか
井沢:確かに結果だけを見て状況を知らずにいると、判断を誤ります。たとえば、1600年の関ヶ原の戦いがわずか1日で終わったことは、ちょっと歴史に興味のある人なら誰でも知っていますね。しかし昨年の大河ドラマ『真田丸』では、真田信幸や真田信繁の父である真田昌幸が「えっ、もう終わっちゃったの?」と驚いていました。実は戦いに参加しなかった黒田官兵衛も同じように驚いた。1~2年は続くだろうと思って準備していたんです。
では真田昌幸や、九州で戦況を分析していた黒田官兵衛はアホだったのかというと、それは絶対に違う。地理的な状況などを整理すると、合戦が1日で終わると考えるほうがおかしいんです。にもかかわらず西軍があっさり負けたのは、むしろ石田三成が負けることをまったく考えていなかったから。やはり三成は官僚であって、軍隊を動かせる軍人ではなかったということです。
三成をはじめ、当時の人になり切って考えてみれば、わずか1日で終わるという結果がいかに常識外れで意外で無念だったかがわかるのです。
中原:当事者になり切るということは重要ですね。その視点はどうやって養ってこられたのですか。
井沢:僕の趣味は演劇なんです。見るのも好きですが、高校生の頃から芝居を始めて、今でも文士劇(作家・記者を中心として行うアマチュア演劇)をやっています。では「演じる基本とは何か」というと、当たり前だけど、その人物になり切ること。歴史を見るうえでも、これがけっこう役に立つんです。
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