ところで、4~6月の世界経済は、一部資源新興国の正常化によってGDPはやや高まったが、3%付近での安定成長が続いているという程度だ。こうした中で、春先から米国でのインフレ率の低下が、金融市場で大きなテーマとなっている。これは携帯電話サービスなどの一部品目の価格下落の影響がもたらしていると、FRBは認識して利上げ、引き締め継続を示している。
世界経済の減速時、日本での歳出拡大や減税はあるか
一方、筆者は、完全雇用に近いとされる米国を含め、安定成長が続く世界経済全体でスラック(余剰)がなお大きいことが、米国を含めた世界的なインフレ抑制に影響しているとみている。実際に、経済成長は底堅く循環的な回復は続いているが、7月以降、南アフリカ、インド、インドネシアで中央銀行が利下げに転じ、利上げを続けていたメキシコ中銀は据え置きに転じているが、これらは新興国全般でインフレの鈍化が目立っていることを意味する。
世界的なディスインフレ圧力が強まる中で、FRBが国内労働市場の改善を主たる理由に引き締め政策を継続していることは、世界経済全体の思わぬ減速を招く可能性がある。世界経済全体が大きく減速するとは思われないが、2016年以降の成長率の緩やかな改善が一服し、半年程度は「ソフトパッチ」(ぬかるみ、いわゆる足踏み状態)に転じるのではないか。
金融市場をみると、米国株市場は、8月に北朝鮮リスクが再浮上してから株高に歯止めがかかったが依然として最高値圏にある。一方で、ユーロ圏ではECB(欧州中央銀行)がテーパリング(量的緩和の縮小)に向かっているとの思惑でユーロ高が進み、すでに欧州株は5月の高値からピークアウトしている。年2%程度で成長している欧州経済は、ECBの金融政策転換に耐えられるほど強くはないということである。今後FRBによる引き締め政策によって、欧州と同程度の経済パフォーマンスである米国でも、株式市場が調整局面を迎える可能性がある。
以上の筆者の想定が正しければ、日本経済は2017年後半にかけて海外需要の減速や円高に直面するリスクがある。日本銀行による金融緩和の徹底は言うまでもないが、財政政策による総需要拡大が必要になってくるかもしれない。この点で言えば、8月に入ってから米国ではトランプ政権の基盤が一段と脆弱になっており、大型減税など追加的な財政政策発動の可能性が低下している。
一方、年初からのマスコミや野党による攻撃が一服し、8月の内閣改造を経て安倍晋三政権のポリティカルキャピタル(政治的資源)が少しずつ復調している。官邸のリーダーシップが機能する日本のほうが、国内外のディスインフレを慎重に判断するとみられ、このため財政政策発動については相対的には期待できるだろう。年末までに、教育国債発行などを通じた大規模な歳出拡大、あるいは減税政策が実現するかどうかに筆者は注目している。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら