自動車の軽量化が可能な「木材繊維」に熱視線 鉄の5倍強い新素材の実用化急ぐ

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CNFを車部品に使うには合成樹脂との混合が必要。だが、CNFと樹脂を混ぜるのは水と油を混ぜるような難しさがあり、その実現には複数の工程が必要であるため、製造コストは1キログラム当たり5000円―1万円だった。  

この課題解決のため京大などが昨年、新製法「京都プロセス」を確立、別工程だったパルプのナノ化と樹脂との混合を同時に行う方法を生み出した。新製法で量産が進めば製造コストは1キロ1000円まで下がるとみている。炭素繊維の約3000円と比べても安い。  

矢野教授は「車用材料という大きな市場を狙いたい」と話す。軽量化素材として現在広く使われる1キロ200円の高張力鋼(ハイテン材)などと競えるよう、同教授は30年までに1キロ約500円を目指す。  古河電気工業<5801.T>も電線ケーブルで培った樹脂加工技術を応用し、製造コストを現状の約10分の1に下げる技術を開発中だ。試作では1キロ400円のめどがついており、24年には量産技術を確立する考えだ。   

車用の内外装部品メーカー、ダイキョーニシカワは金属から樹脂への切り替えを進めており、同社広報の石野幸彦氏は「CNFを混ぜることで樹脂の可能性がもっと広がるのでは」と期待する。

既存素材も競争力強化

CNFは「ポスト炭素繊維」との声もある。炭素繊維は軽量化ニーズに応える新素材として先行してきたが、製造コストはCNF同様まだ高く、リサイクル性が弱い。ただ、炭素繊維を織り込んだ強化樹脂(CFRP)の採用は広がりつつあり、独BMW<BMWG.DE>やトヨタなど一部車種で使われている。

炭素繊維市場を先頭で引っ張ってきた東レ<3402.T>は「製造プロセス全体でペイするか、部品として値段が下がるかどうかが一番大事」(広報)とし、加工しやすい中間材料や加工方法などを開発して取引先にコストが下がる提案をしているという。 

新日鉄住金<5401.T>の栄敏治副社長は、現状ではアルミが鋼材市場を侵食しているとする一方、「CNFはまだ研究段階」と語る。ただ、軽量化に向けた競争力強化は「極めて大きな経営課題。最優先で進めている」といい、対抗戦略の1つとして、例えば炭素繊維と鉄を組み合わせるなどの「複合素材」を検討している。 

神戸製鋼所<5406.T>の川崎博也社長は、30年時点では「CNFを含めた樹脂はメインにはなっていない」との見方で、「スチールとアルミの組み合わせが主流」とみている。「足元もアルミへの期待度やオファーは強く、アルミを使いたいという需要が強いと感じる」という。

日本アルミニウム協会の岡田満会長(UACJ<5741.T>社長)は、CNFのコストが下がり、競争力がつけば「当然、脅威となる」と指摘。「脅威を感じながら、アルミの良さをどう活かすか、さらなる開発に力を注ぐ」と語った。  

専門家らは高張力鋼やアルミ合金も中期的にコスト競争力を維持し続けるとみているが、経済産業省は技術進化と大幅な製造コストの低下により、国内CNF市場が30年に1兆円、車用材料向けは最大約6000億円と予測している。

(白木真紀、田実直美、大林優香)

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