パリの駅ナカ「星付きシェフ」が続々と出店へ 多忙な人向けに短時間、低価格で高級料理を

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念のため補足したい。フランスには、パリだけでもレストラン数は約1万3000店ある。その激しい競争を勝ち抜き、ミシュランガイド2017年フランス版に掲載された2つ星レストランは、わずか86店舗にすぎない。

その86人中の1人、マークス氏は快活に話す。

ほぼすべてのフランス人が名を知る2つ星シェフ、ティエリ・マークス(©Roberto Frankenberg)

「メニュー構成を考える際、駅ナカとホテル内レストランでの最大の違いは、駅の場合、多様な人々のニーズに最適なメニューを考案しなければいけない点です。列車に乗るため、食事を急ぐ人もいる反面、落ち着いて食事をしたい人もいる。ニーズの振り幅が大きいのです。結果、レトワール・デュ・ノールのコンセプトは、短サイクルで、かつ、人気メニューを提供すると決めました」

レトワール・デュ・ノールの1品当たりの価格帯は、約12~45ユーロ(約1550~5850円)。そして、「人気メニュー」とは、いわゆる“定番料理”を指す。

メニューの前菜の欄を見ると、「ポロネギのフレンチドレッシング和え」「ウフ・マヨネズ」など、日本人にも馴染みのある料理が並ぶ。その一方で、あまりに定番な料理をフランス人は好まない傾向もある。人気シェフのレストランを訪れたならば、ほかでは食べられない料理を口にしたい。

「人気料理イコール独創性がなく凡庸、ということはありません。人気料理とは簡単に人々が記憶できる料理のことです。クロード・フランソワというフランスの人気歌手がいますが、彼の曲は、お年寄りから子供まで全員が思い出せます。人気料理とはグローバルであり、美食の記憶を仕立ててくれるものです」

経営課題は「駅の快適性の向上」

マークス氏の芸術家のような言葉を反芻する。そして、赤ワインを飲みつつ、ランチコースを堪能した。前菜、メイン、デザート、食後のカフェまで約50分とフランス料理にしては超スピーディ。さらに、会計48ユーロ(約6250円)にも超割安感があった。

駅の魅力向上が、現在のSNCFの経営戦略と前述した。

「レトワール・デュ・ノール」。オープン・キッチン仕様の1階レストラン(©Jérôme Léglise/SNCF)

直接、その指揮を執るのは、SNCFグループ傘下で駅などの監督を行うSNCF ガール・エ・コネクシオン(直訳で「駅とコネクション」)社。CEOのパトリック・ロペール氏は、「清潔感」と「快適性」が改善すべき2大テーマと話す。

「清潔感に関しては、かなり進歩できました。しかし、本当の挑戦は快適性。駅利用者にアンケートを実施した結果、快適性の向上が要望として最も多かった。そして、快適性は収入にもかかわってきます。駅の中で快適に過ごせるか否かは、利用者が買い物するか否かに直結します」

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