旅館の清掃従業員として働く65歳住職の困窮 「食えないお寺」が増えている

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食べるための戦略をどう立てればいいか。幸いなことにコメや野菜、海の幸は檀家が届けてくれた。昔ながらの助け合いの精神もまだある。自身は布教師として立つことに決めた。

月回向(えこう)に欠かさず行き、行事を増やし、祈祷(きとう)会や施餓鬼(せがき)をした。仏教に触れるツアーや写経、落語会も企画した。布教師として、県内外の多くの寺へ説教に回った。現在、常任布教師を務める。檀家は82軒に増えた。決して豊かではないが、夫婦2人だから、「なんとかやってこられた面もある」という。

マーケティングも必要

寺院経営のコンサルティングをしている寺院デザイン代表の薄井秀夫さんは、「地方の過疎化や檀徒(檀家)数の減少は、数十年前から起きていたこと」と指摘する。

寺の維持費や運営を考えると、布施収入だけではやっていけない寺は少なくない。

「たとえば、15年の曹洞宗の宗勢総合調査によると、収入の総額が年300万円以下のお寺は全体の41.9%、100万円以下は全体の24%です」(薄井さん)

そんななか、多くの寺院が起死回生の策として飛びついているのが、永代供養墓だ。近年、永代供養墓をめぐる相談が増えている。

「郊外に数億円をかけて永代供養墓を建てたが、申し込みが数年で数えるほど、という相談が来たこともあります。明らかに回収不能です」(同)

申し込みが来ないのは、広報が不十分だから。薄井さんはマーケティングを行い、募集計画を立て、見学会の開催、広告出稿などの広報策を提案している。

「お寺も、マーケティングを考えなければ、生き残れない時代だと思います」(同)

現在、父が住職を務める京都・正覚寺(しょうかくじ)の檀家(だんか)数は約120軒です。将来私は33代目住職になる予定ですが、会社員をしているのはお寺だけでは到底食べていけないからです。

日経BP社員兼僧侶・鵜飼秀徳さんが語る“お寺” お寺だけでは食えない“貧困坊主”の現実とは

寺院の経済力は、純粋に檀家数に比例します。江戸時代は人口3千万人に対し、寺は9万ありました。現在は住職がいる寺は6万ほど。寺が消滅していく背景には檀家数の減少に加え、地域格差があります。例えば葬式のお布施額は、東京と地方では5倍ほどの開きがあることも。

団塊の世代が都市部に住むようになって50年ほど経ちました。何十年ぶりに田舎の葬式に帰っても、お布施の相場がわからないのは当然です。個々の経済力によってお布施として払う金額が変わるという考え方も崩壊しています。これは、核家族がもたらした仏教リテラシーの低下だと思います。その結果、「坊主丸もうけ」というネガティブなイメージだけが広がるわけです。

今後、僧侶の貧困は続くと思います。2040年には3万の寺院が消えると言われています。まるでM&Aのように、運営難の寺院は吸収され、残った寺院は兼業寺院となり肥大化していくでしょう。構造的に見れば都市部の寺が地方の寺の受け皿になっています。都市部の寺も、価格競争にさらされ、葬式などの価格やサービスによって淘汰(とうた)が始まります。

貧困や後継者不足による寺の消滅は止められません。しかし、なすすべなく待つのではなく、後継者探しや寺院が社会に認知されるために何をすべきかを、寺院だけではなく、宗門も積極的に考えるべきだと思います。

(編集部・熊澤志保、小野ヒデコ)

AERA 2017年8月7日

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