日本勢の勝機は?英高速鉄道「HS2」の全貌 世界の注目度は高く、中国も食指伸ばす

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HS2の1期工事で完成予定のロンドン・ユーストン-バーミンガム間は現在、西海岸本線を走る仏アルストム製の振子車両「ペンドリーノ」が82~85分で結んでいるが、HS2完成時は45分程度で走破する見込みである。しかし、2012年1月に国会で1期工事の計画が承認されて以来、反対派は「たかだか40分ほどの短縮のために、巨額なコストと重大な環境破壊を行ってまで造る価値はない」といった主張を展開している。また、英運輸省は「HS2敷設で保有する不動産に影響を受ける市民には、補償金として資産価値の110%分を支払う」としているが、建てたばかりの住宅団地が取り壊しの目に遭うことが決まったといったケースもあり、今後の用地取得がスムーズに行くかどうかは未知数だ。

ロンドンとマンチェスター、ヨークなどの都市が短時間で結ばれる(編集部作成)

しかしHS2開通の暁には、バーミンガムだけでなく、その先にあるマンチェスターやリバプール、さらにはスコットランド方面へも高速線経由の列車が直通する。つまり、HS2の恩恵はイングランド中部の住民だけでなく、英国の多くの街の人々も大いに受けることとなるのだ。

また、優等旅客列車がHS2に移ることで余裕ができる在来線を使って、より多くの貨物列車を運行する計画もある。これにより物資輸送がトラックから鉄道にシフトできるため、結果として道路混雑の解消や、温暖化の元凶となる二酸化炭素(CO2)や排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の削減にもつながる。

英国では、HS2プロジェクトに先行して、老朽化した長距離列車の車両を更新する「IEP(都市間高速鉄道計画)」が進められている。IEPの対象は、ロンドンとスコットランドを結ぶ東海岸本線と、ロンドンとウェールズ南部を結ぶグレートウエスタン本線の2線区で、いずれも日立製の新型車両と置き換えられる予定だ。

では、HS2で使用される車両はどんなものになるのだろうか。

日立が受注に意欲

英運輸省は今年1月、車両発注先の選定手続きを開始した。メーカーに求められる車両の仕様や条件は「時速360kmで走れること」「1編成の定員は1000人以上」「納入する編成数は最大60本」となっている。契約額は27億5000万ポンド(約4000億円)で、メーカーは車両の生産だけでなく、実際に運用が開始された後のメンテナンス作業も引き受けなければならない。

IEPで総額1兆円規模となる868両もの車両を受注した日立は、HS2向け車両の落札も狙っている。日立の鉄道部門を率いるアリステア・ドーマー氏がおよそ2年前、イングランド北東部のニュートンエイクリフの鉄道車両工場開設の際に行われた会見で、「日立は魅力的な車両を提案できる」と、IEPだけでなくその先にあるHS2向け高速車両の納入に自信をみなぎらせていたことを思い出す。同社は今年5月、HS21期工事の目的地となるバーミンガムで開かれた鉄道関連の展示会「Railtex」でHS2を念頭に入れた高速車両「AT-400」の模型を陳列。業界関係者に改めて入札参加への意欲を示す格好となった。

BBCなど英国メディアの報道によると、HS2の車両受注をめぐっては日立のほか、”ビッグスリー”に名を連ねる独シーメンス、仏アルストム、そして中国中車(CRRC)が落札を狙っているという。Railtexではこのほか、スペインでフリーゲージトレインを生産するタルゴもHS2への参画を視野に入れた展示を行っていた。

正式入札は2018年に入ってから手続きが進められ、車両発注先は2019年中に決定する見込みだ。選考に当たっては、車両そのものの性能だけでなく、騒音や環境への配慮、雇用の促進なども併せて考慮されるという。

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