東京の名門校「武蔵」の生徒はムダから学ぶ 岩石薄片をひたすら削るだけの授業の意味

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「キムワイプは、実験用の紙で、ティッシュペーパーと違って紙の繊維が出にくいんです」

「1度でいいから、それで鼻かんでみたい!」

生徒が冗談を言う。

「なぜ?」をたくさん投げかける

「2000番までできたら、早い人は、貼り付けまでやってもらいます。2000番まで終わった岩石チップは、よく水洗いして、キムワイプで拭きます。そして以後、接着面は手で触りません。なんで?」

「指紋が付くから」

「指紋って何?」

「脂?」

「そう、手の脂が付いてしまいます。しっかりくっつけたつもりでも、脂のせいで、あとで剝がれちゃうかもしれません。触らない、汚さないだけじゃなくて、水分も完全に飛ばさなければいけません。なぜ?」

「剝がれるから」

「そういうことなんだけど、なぜ、剝がれる?」

「水蒸気……」

「水分は蒸発すると水蒸気になるよね。そうするとそれは泡になるでしょ。接着面に泡が入っちゃうと、剝がれる可能性が高まるでしょ。だから、水分を飛ばすために、120度くらいに設定したホットプレートの上に置いて、約5分間熱します」

このとき説明した各段取りでの注意点を、生徒たちがすべて覚えているとは思えない。しかし、ここで説明していることは、実は、作業の目的を考えれば、専門知識などなくてもわかることだ。だんだんときめの細かい研磨剤を使うのに、前の段階の研磨剤が残留していたら、傷になってしまうのは当たり前。手の脂が接着の邪魔になることも当たり前。水分を飛ばすために温めた岩石チップの温度が冷めきらないうちにプレパラートに接着してしまったほうが、より空気が混入しにくく好ましいということも、ちょっと考えればわかる。

だから、川手教諭は、「なぜ?」をたくさん投げかける。ただ説明書に書いてあるとおり作業するのではなく、理屈で理解して自分で判断できるようになってほしいのだ。

やってはいけないことをやってしまっている。わかるだろうか?(写真は筆者撮影)
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