中小企業の「人手不足倒産」が広がりつつある 2017年上期の件数は4年前の2.9倍に

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ただ、2017年上半期に「運輸・通信業」と並んで前年同期比133.3%増という大幅な件数の伸びを示したのは「小売業」だった。足元では、特殊な資格やノウハウが必要でない業種でも人手不足による倒産が増えている。

たとえば、愛知県で眼鏡小売店「メガネ卸センター平和」を展開していたヘーワ。1992年の創業で、最盛期には年商5億円超、正社員40人に達していたが、創業時からのメンバーが社員を引き連れて独立したことで人手不足に陥った。賞与もわずかしか支給できず、退職者が相次ぎ、8店舗の運営が困難に。2016年11月から家賃を滞納するようになり、今年2月に手形不渡りを出し、廃業に至った。

「小売店のスタッフはそこまで高度な技能を要求されないが、折からの人手不足の影響もあり、待遇や給与面を理由にして従業員が離れていく事例が散見される」(加藤氏)

賃金を引き上げても、販売価格への転嫁は困難

特に都市部は企業数が多く、募集段階から企業間の競争が激しくなっているという。裏を返せば、従業員も辞めやすい環境になっているわけだ。実際、都道府県別の4年半の累計では、「東京都」が39件でトップ。22件の福岡県、18件の北海道、大阪府がこれに続く。

今後、人手不足によって人件費が上昇していけば、それに見合った販売価格への転嫁が必要な局面になる。だが、眼鏡のような商品が急に値上げできるわけではない。高齢者の再雇用も広がっているが、彼らが建設作業員やシステムエンジニアとして働くのは困難だ。

「人手不足がIT化などの省力化投資を呼び起こした面もある。ただ、人手不足が行きすぎてしまうと、人件費の上昇を省力化で補いきれず、収益の圧迫を招く。産業構造が変わらないかぎり、こうした状況は解消されず、今までの投資意欲を削ぐ可能性がある」(東京商工リサーチの松永伸也・情報部部長)

日本商工会議所がまとめた「人手不足等への対応に関する調査」では、全国2776社の中小企業のうち、6割の企業が「不足している」と回答した。現状では全体の1割にも満たない人手不足による倒産だが、先行きの改善が見込みづらい中、今後はさらなる影響の拡大が懸念される。

猪澤 顕明 東洋経済 記者

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の記者を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年に国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。2024年から「東洋経済オンライン」の有料会員ページを担当。

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