大手私鉄の経営に「JRの30年」が与えた影響 速さでJR優位、西日本で目立つ乗客減少
西鉄の天神大牟田線と並行するJR九州鹿児島線の輸送人員の推移は不明のため割愛するが、西日本の大手私鉄と並行するJRの路線のうち、1985年度と11年度とで輸送人員が増えなかったのは、1億2784.8万人から1億2347万人へと、3.4%減少したJR西日本の阪和線天王寺─山中渓間くらいしか見当たらない。しかし、同線と並行する南海本線の輸送人員は増加に転じることはなく、阪和線を上回る28.9%の減少率であった。
西日本の大手私鉄各線と並行するJR各社の路線との間で生じた明暗は、大手私鉄各社の怠慢というより、JR各社の変貌によるものと言ってよい。先に挙げたJR東海、JR西日本の各線は、国鉄時代には「汽車」と呼ばれ、大手私鉄と比べてスピード自体は速いものの、列車の運転本数が少ないうえに加速も鈍く、全体として鈍重な交通機関であった。
しかし、国鉄末期からJR発足直後にかけてJR東海、JR西日本の両社はこうした路線を大都市の鉄道にふさわしい姿へと改める。列車は増発され、時刻表を見なくても利用できるようになった。しかも大手私鉄の各線と比べて運転速度が速いという特徴はそのまま残された結果、旅客は徐々にJR各線へと移行していく。対する西日本の大手私鉄は、多くの路線でJRと並行しているという立地上の不利もあり、輸送人員の落ち込みが大きくなったとみられる。
「営業係数」一定を保つ私鉄の経営手法
しかしながらと言うべきか、だからこそと言うべきか、輸送人員の増減という波に翻弄されながらも、大手私鉄の営業収支はJR発足後もほぼ一定の水準を保っている。各社のバラツキは大きいように見えるが、実際には各社とも営業係数(100円の営業収入を上げるために必要な営業費用)は70台から90台前半までの間に収まっているのだ。
ちなみに、ライバル関係にあるJR各社の営業係数を1987年度・2012年度の順に挙げると、JR東日本は81・84、JR東海は92・68、JR西日本は91・89、JR九州は122・107である。大都市圏以外でも鉄道事業を行っているJR各社と大手私鉄を比較することは難しいものの、JR東日本やJR西日本の営業係数を見るかぎりでは、大手私鉄各社は健闘していると言ってよい。
営業係数を見るうえで重要な点は、施設や車両に投資可能な経常利益を生み出せる数値であるかだ。鉄道事業において投資が可能となる最低限の経常利益は営業収入の1%とされる。これは、国鉄の分割民営化時に経営基盤の弱いJR北海道、JR四国、JR九州の3社を支援するために用意された経営安定基金の運用益の当初の設計値だ。
実際には経常利益が営業収入の1%では苦しい水準で、他業種のように10%前後とは言わないものの、5%程度は欲しい。その場合の営業係数は、大手私鉄の水準となるのだ。
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