「外国人よ、嫌なら来るな」は無責任な暴論だ 日本の観光は、これからさらに激変する

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こうして日本は何かを大きく変えることなく最大限の成果を得たわけですが、この戦略もそろそろ頭打ちになってきています。

最近の中国人観光客数は、前年同月比2%程度しか増えないことが多くなってきました。訪日中国人観光客の潜在能力に近いレベルに届きつつあるので、伸び率が鈍化しています。もともと低いベースからスタートしたので爆発的に中国人観光客が増えたような印象を受けるかもしれませんが、何のことはありません、中国人アウトバウンド成長率に収斂(しゅうれん)しているのです。

一方で、東アジアからの観光客数が増えていくにつれて、訪日観光客1人当たりの単価が低下しています。考えてみればこれは当然で、「日本人観光客」と同じようなスタイルの観光客なのですから、短期滞在先である日本が身近になればなるほど、おカネを落としてくれなくなります。鬼怒川などの「昭和の観光地」で使われる単価が、1990年代から急速に落ち込んでいったのと同じことです。

このように「平成の観光」にも天井が見えてきた今、第3フェーズである「未来の観光」へと踏み出すことが求められていることは自明の理でしょう。

第3フェーズは「多様化」の道

ここでポイントとなってくるのは、やはり「多様性」です。

データを見てみると、すでに訪日外国人観光客の構成に変化の兆しがでています。これまでアジアの観光客といえば、中国、韓国、台湾、香港だったのですが、現在の伸び率のトップはインドネシアです。また、これまでは「親日家」に向けてしか発信してこなかったため訪日観光客数が少なかったロシア、カナダ、スペイン、米国、オーストラリア、イタリア、ドイツなどの国からの観光客も、2ケタ成長をしています。

つまり、「客」の顔ぶれがこれまでにないほど多様化しはじめているのです。これらの遠方からやってくる人たちは、中国人観光客や韓国人観光客のように「昭和の日本人観光客」のような対応が通用しないということは明らかです。

もし外国人観光客に頼らず現在の観光業を維持しようというのなら、社会保障制度同様の問題に直面します。つまり、空前の結婚ブームがやってきて、3人くらい子供を産むのが常識になるような社会にならないかぎり、破綻するのは目に見えています。

「嫌なら外国人は来なくて結構」という主張は気持ちとしてはよくわかります。しかし、現実を見据えていない感情論と言わざるをえないのは、これが理由です。

それは裏を返せば、やることをやれば、いまの観光業は維持どころか、逆に大きく発展することができるということでもあるのです。そのような意味では、日本の「観光」は今、大きな決断を迫られているということが言えるのかもしれません。

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