「外国人よ、嫌なら来るな」は無責任な暴論だ 日本の観光は、これからさらに激変する
28年もこの国で働き、生活をしていますから、私はこのような「反論」に慣れています。拙著『国宝消滅』で文化財行政に対する提言を行った際にも、同様の反応を多く頂戴しました。
文化財保護の現場にいますと、「日本の伝統を守れ」という声がこれほど世にあふれているのに、おカネがないから修理・修繕ができずに朽ち果てている貴重な文化財が多いことに驚きます。
財源がないので国や自治体は何もできない。所有者も何もできない。だったら、この貴重な文化財を守っていくために、これまでの考え方を変えて、「観光整備」をして自分たちで稼いで、自分たちで守っていくしかない。事実、世界にはそのようにして伝統を守っている文化財が多くあります。
そのような提言をすると、「日本の伝統を守れ」「外国人に合わせて変えるべきではない」といろいろな方たちからお叱りが寄せられます。ただ、そこには「具体的な対案」がありません。自ら寄付をして守るつもりもないのに、文化財を守るための「変化」には反対する人が多いのです。
「旅館」もこの問題とまったく同じだと感じています。地方へ出張した際、昭和の香りがする「旅館」を利用しますが、シャッター商店街同様に閑古鳥が鳴いているところが多いです。人口増加時代が終わったことで、明らかに国内観光客が減っているのです。
人口減少が引き起こす厳しい現実を認めたくない気持ちは理解できますが、「旅館」という伝統を日本人観光客だけで支えることができないなら、選べる「道」は2つしかありません。
ひとつは、「守れ」「変えるな」と叫び続けながら多くの旅館が倒産していく道。そしてもうひとつは、外国人観光客のニーズに合わせてある程度の「調整」をすることで存続させていく道です。
旅館は変わってほしくないけど、外国人には来てほしくない。自分たちは利用しないけれど、外国人観光客のニーズに合わせたような変化は認めない。これらは残念ながら提言ではなく、単なる「身勝手」ではないでしょうか。
これまでの日本社会のように、自国民だけで、右肩あがりの世の中を謳歌したいと望む心情はよく理解できますが、まずは「現実」に目を向けていただかなければ、建設的な議論はできません。
そこで今回は目先を変えて、日本をとりまく観光の「現実」と、これからとるべき観光戦略についてお話をしていきたいと思います。
「昭和の観光」「平成の観光」「将来の観光」
「外国人なんか来てもらわなくて結構」という方のコメントを見ていると、中国人や韓国人の団体観光客が大挙して押し寄せている現状を不愉快に感じている方が多いことがわかります。しかし、そのようなトレンドは、来年以降大きく変わっていくと私は考えています。
現在、訪日外国人観光客は東アジアの近隣諸国からの人たちに「偏重」していますが、今後は全世界から偏りなく訪日してもらう戦略が求められているからです。
まずは現状を振り返ってみましょう。日本の観光産業というものは、大きく3つフェーズに分けることができます。
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