40代会社員が大胆な転身に及び腰になる事情 日本人に多い「ライフ・シフト」は3パターン

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『ライフ・シフト』は昨年10月の刊行以降、日本でも多くの反響を呼んだが、同書は日本の状況に合わせて書かれた本ではない。そこで小社には読者からこんな問い合わせが多く寄せられた。「日本でライフ・シフトを実践するには、どうすればいいのか」――。『週刊東洋経済』はそうした声に応えるべく、7月15日発売号(7月22日号)で「ライフ・シフト実践編」を特集。日本での実践例を多く取り上げている。

取材から見えたのは、日本での実践例には典型的な“パターン”があるということだ。1つが「未来志向若者系」。佐藤さんのように、来るべき将来を見据え、終身雇用など既存の企業文化にない自由な働き方を求める。もう1つのパターンが「子育てママ系」。企業でバリバリ働いた後、産休、育休を経て復帰。しかし、独身時のような働き方ができず、仕事と子育てとの両立に悩み、キャリア再設計に踏み切る。

東京都に住む河合優香理さん(37)も、「子育てママ系」のライフ・シフト実践者の1人。2016年秋までマイクロソフトでマーケティングの仕事をしていたが、子どもが小学生になるのを機に、独立に踏み切った。

「女性がこなせる仕事量は、人生のタイミングによって多くなったり少なくなったりする。子どもが小学校低学年までは、仕事の量を減らさなければいけないけれど、高学年になって手が離れたら、また増やしたい。そう考えると、働く時間も場所も自由に選べない会社員の働き方を、一生続けるのは難しいと思った」(河合さん)

現在はフリーランスとして、国内外の企業の新規事業などを受託。独立後は自身の成長を実感するという。「会社員時代は自分の管轄の仕事さえこなせばよかったが、フリーになれば、すべて自分で調べ、行動し、確実に結果を出す必要がある。緊張感が違う」(河合さん)。

この2パターンに加え、目立つのが「定年後不安系」の実践者。1つの会社で定年まで勤め上げ、老後にやることがないと、ふと気づくパターンだ。不安をバネに、価値観を転換。趣味やNPOなど、会社員時代とは違う人生への“ライフ・シフト”を迫られる。これはシニア世代の多くが直面している現実だろう。

会社員でもできるライフ・シフト

一方で、ライフ・シフトの世代で目立たないのが、40~50代の会社でバリバリ働いているサラリーマンだ。教育費や住宅ローンの負担が重く、リスクを伴う転身には及び腰。日本型の終身雇用システムに守られ、年を取るごとに、会社への依存度を上げていく。

ある40代の会社員は、「私には子どもが3人いるから、『ライフ・シフト』は現実的じゃない。とてもそんなリスクはとれない」と言い切る。

週刊東洋経済7月15日発売号(7月22日号)の特集は『ライフ・シフト実践編』です。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ただし、100年人生時代には、会社の退職後にも長い人生が待ち受ける。中高年会社員にも、いずれライフ・シフトを迫られるタイミングがくる。京都大学の瀧本哲史客員准教授は、「日本の会社は中途半端な総合職という、何もできない人を大量に作ってしまうのが問題」としながら、「たとえば中高年社員にとっては、本業の時間を5%減らし、その分をPTAやマンションの管理組合などに充てることが、『ライフ・シフト』でいうポートフォリオ・ワーカーになる」と話す。

多忙な会社員でも、仕事をしながらできる“ライフ・シフト”がある。20代で就職し、60代で引退という従来のキャリアモデルが変わろうとする中、マルチステージ人生に向けた準備は、誰にとっても他人事ではないのである。

(イラスト:平戸 三平)

許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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