プロ野球選手を陰で支えるバット職人の真実 12球団130人の製作を手がけた男が語る

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――最高の作り手は、最高の聞き手でもある。

熊谷氏:バットづくりは選手との打ち合わせ段階から始まっています。いかに要望を伺うことができるか。また要望を受けるだけでなく、要望を受けてつくったバットが、どんなパフォーマンスを発揮できるかまで説明しないといけません。お互いの頭にあるイメージを言葉にして、要望に100%ではなく120%で応えたいと思っています。

シーズン中に仕様変更を頼まれた場合は、直接お会いできないことも多く、その中でいかに要望に沿ったものにするかが、苦心するところです。場合によっては、直接球場に伺うときもあります。

人の喜びに繋がる幸せを噛みしめて

――結果がすべての選手に、プロの技術で応える。

熊谷氏:打ち方や技術、それぞれギリギリの心の内まで入り込んで、選手と一緒につくっていく。結果がすべてという厳しい勝負の世界にいる選手のために、その能力を最大限に発揮できる道具をつくるのがバット職人。

また、当たり前ですが、自分のバットをつくっているわけではなく、あくまでバットを使うのは選手ですから、選手のこだわりが最優先です。色、長さ、重量など、リクエストに120%で応える。それは私も含めて、各工程に携わる職人皆同じ想いです。

そして結果がすべて。どんなに「いいバット」をつくれたとしても、それが結果に結びつかなければ意味がない。「いいバットは結果が出るバット」。そこを忘れてはいけません。結果がでない時はこちらも苦しいものです。選手が活躍する瞬間、そして結果好成績につながった時が最上の喜びです。

――バット職人としての技術の成長が、喜びに繋がる。

熊谷氏:新しい技術とともに、私自身もまだまだ成長しないといけません。一方で、私も後進の育成に取り組む立場となり、そのことに責任を感じています。

「私にとってバットは……」、と語れるほどの余裕はまだなく、いまだに試行錯誤の毎日ですが、今言えるのは、私が野球と接点を持っていられるかけがえのない仕事だということです。選手としてフィールドで活躍する代わりに、選手がバットを持って打席に立ってくれている。それが、皆の喜びにも繋がっていく。そんなことを想像しながら、ますます選手が活躍できるバットづくりを、これからも追求し続けていきたいと思います。

(インタビュー・文/沖中幸太郎)

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アルファポリスビジネス編集部

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