ダメな経営者は「AIの本質」をわかっていない 「過剰な期待」も「過度な怯え」も間違っている
それを肯定する前者にはAIに対する過大な期待があり、ITに理解が深いようにみえなくもない。一方、後者は、逆にAIを過小評価しているタイプだ。一見すると正反対に見える両者だが、実は大きな共通点がある。それはAIを『2001年宇宙の旅』のHAL9000のような万能のコンピュータと想定している点だ。そしてこれは、現時点でAIを語るうえでは大きな間違いである。
「AIの歴史とは、従来の機械には不可能だったことをコンピュータで可能にしてきた営み。その意味ではコンピュータサイエンスと呼ぶのが正しかったのに、そこに『人工知能』という人間の知性を想起させる名前が与えられた。今振り返れば、この名前を与えられたこと自体がそもそも不幸だったのかもしれない」。そう指摘するのは、AIベンチャーの国内筆頭格、プリファードネットワークス(PFN)の丸山宏最高戦略責任者だ。
AIは概念としては、「強いAI」と「弱いAI」に分けられる。強いAIとは汎用型とも呼ばれ、人間と同レベルの知能を持ち何でもできるものを指す。一方で弱いAIは、囲碁のような特定の問題にのみ対処できる特化型だ。そして丸山氏は、「現在のAI研究の大半を占める機械学習技術は特化型。そして機械学習技術の延長線上には、汎用AIはない」と断言する。つまり今の技術が進歩しても、HALやシンギュラリティは実現しないというのだ。
簡単な診断なら数秒
では今の技術のAIとはどのようなものか。富士通でAI案件のマーケティングを担当している橋本文行マーケティング戦略本部統括部長はこう話す。「人力による検索や判断を支援するのが現在のAIの主な機能だ。人間でもできるが、より短い時間で、大量に処理することができる。優れたホワイトカラーでも1人の人間ができることには限りがあるから、AIにはその生産性を大きく伸ばすことができる」。
たとえば富士通はスペインのサン・カルロス医療研究所と共同で、精神病患者の診断時にAIを導入する実証実験を行った。過去の患者数万人のデータと、学術論文など医療関係のオープン・データ100万件以上を取り込んでデータベースを構築。AIはデータベースと新たな患者の情報とを照合・解析し、自殺やアルコール依存症などの潜在的なリスクを医師に示す。
結果を出すまでにAIが要する時間はわずか数秒。このAIの「診断」精度はベテラン医師の85%程度だというが、このAIを使うことで医師は患者の問診により多くの時間をかけられるようになり、トータルではこれまでよりも高精度の診察ができるのだという。
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