再配達は不要!ファンケルの「置くだけ宅配」 盗難などの紛失リスクは自社で負っている

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置き場所指定お届けは1997年からファンケルが独自に展開してきた。導入のきっかけになったのは、まさに不在配達だったという。宅配サービスを試験的にはじめた当時、すでに女性の社会進出が本格化しており、日中に届けても不在で商品を持ち帰るケースが頻発した。

不在配達の対応に頭を抱える中、ある購入者から出たのが、「自転車のカゴに入れておいて」という要望だった。このひと言が決め手になった。

ただ実現は簡単ではなかった。難航したのは届け先への配達を担う宅配業者との交渉だ。「受領印なしは不安」「商品に保険を掛けて欲しい」など抵抗に遭い、なかなか引き受けてもらえなかったという。

最大ネックは配達後に商品が紛失した際の責任の所在だった。ファンケルは宅配業者にリスクがかからないよう、自社でそのリスクを負うことにした。万が一、盗難などがあれば、商品を改めて発送すると業者を説得して回り、やっと実現にこぎ着けた。

あれから20年、利用者層は徐々に広がっている。当初は会社勤めの女性が中心だったが、最近は玄関先で宅配業者と顔を合わせることに抵抗感のある人や、足腰が不自由で玄関まで出向いて受け取るのが難しい高齢者など多様化している。

紛失トラブルはごくわずか

ファンケルはトラブルなく置き場所指定お届けサービスを拡大できるか(記者撮影)

気になるのは盗難などの紛失だが、現状ではトラブルはごくわずかだという。再発送となるケースは年間でも片手で数えられるほど。「使い慣れている方では、玄関に箱を置いておいたり、外置きの洗濯機の中などを指定したりしている」(広報)。

ただ、一日中屋外に放置して商品が劣化してしまわないのか、雨天時はぬれてしまわないのかといった課題は残る。同業他社は「体に触れる商品や口にいれるものも数多く扱っている。利便性よりも安全性を優先したい」(大手化粧品メーカー)と導入には慎重だ。

ファンケルでは冷凍商品など一部商品を対象外としているほか、直射日光が当たる場所や風雨にさらされる場所は指定しないよう通知している。ただ、利用者を増える中でも重大なトラブルなくサービスを維持できるか。

宅配業者からの値上げ要請が強まる中、通販はビジネス構造を見直す必要に迫られている。置き場所指定で非対面の宅配を活用出来れば、配送費用の維持・低減につなげられる。ファンケルの置き場所指定には、化粧品会社にとどまらず通販事業者からの注目が集まっている。

若泉 もえな 東洋経済 記者

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わかいずみ もえな / Moena Wakaizumi

東京都出身。2017年に東洋経済新報社に入社。化粧品や日用品、小売り担当などを経て、現在は東洋経済オンライン編集部。大学在学中に台湾に留学、中華エンタメを見るのが趣味。kpopも好き。

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