パワハラ議員の罵声に失笑すら起きない理由

ウソが蔓延する政界にまたもや大ニュース

とはいえ、正直なところ、私はこのニュースを夜のテレビで見たときもまったく驚かなかった。ある自民党の男性議員が「こんなの、男性代議士ならよくあることだ」と言って、すぐに取り消したのもおかしくて、たぶんそうなんだろうなあと思います。

翌朝のテレビのワイドショーでは、さらに意地悪く演出していて、まず先輩議員や支持者に対する彼女の「しおらしい」態度を映し出し、その直後に先の「バカ!ハゲ!死ね!」の罵声を差し込む。

しかし、興味深いことに、上出来の演出なのに、さしておもしろくもない。軽薄なコメンテーターたちでさえ、笑い声も立てない。たぶんそのわけは、みなあまりにも裏表のはっきりした彼女の態度に「すごく汚い」ものを感じとったからでしょう(これで彼女が国会で安倍さんに対しても「バカ!死ね!」と言うのなら許せる、選挙運動中の有権者に向かっても「バカ!ハゲ!」と叫ぶのなら許せる)。

もちろん、こっそり録音して新潮社に持っていった元秘書のやり方も卑劣ですが、あまりにも豊田議員のパワハラが下品で執拗で悪質なので、この程度の復讐は当然と思われてしまう。まさに選挙公示日前日のこの不祥事によって、都議選の自民党票が数十万部失われるというのも、なかなかのグッドタイミングでした。豊田議員はこの責任も全身で引き受けねばならず、政治家としては(少なくとも当分のあいだ)「死ぬ」わけですから、元秘書は正確に彼女に向かって「バカ!ブス!死ね!」というお返しをした結果になります。

弱者を奴隷のように扱う人に反省を促す方法

こうかくいう私も、助手時代に教授から2年に及ぶいじめを受けましたが、殴られることもなく、「死ね!」と言われたわけでもなく、せいぜい「きみを生んだ親の顔が見たいもんだ!」という程度でしたが、その教授も他の教授たちの面前では、これ以上ないほど柔和な表情を浮かべながら、自分の研究室に入った途端、血相を変え、両手はぶるぶる震え、こめかみの血管が浮き立ち、外に聞こえないように声を押さえて「なんで、きみはそんなに自分勝手なんだ! なんで、そんなに態度が悪いんだ! なんで、そんなに評判が悪いんだ! なんで、そんなに頑固なんだ!」と2メートル先の私に向かって怒鳴り散らしました。次第に、自分の怒りに感染して、ますます激高し、手が付けられなくなり、これが1年以上、週に2回として、50回は続いたのです(詳しくは『東大助手物語』新潮文庫を参照のこと)。

いまなら、私はやはり録音して学科長か学部長に直訴したことでしょう。そうでないと、相手を殺さないまでも、相手と「相討ち」することを考えるようになる。この苦しみがずっと続くのなら、もういい、このさい相手も道連れにして地獄に堕ちたくなる。あの元秘書も、運転中でしたから、(人は轢かないまでも)豊田議員を道連れにどこかに激突して自殺することなどちらちら頭の片隅をよぎったのではないか、と思われます(とくに娘のことをヘンな抑揚をつけて歌われたときには)。

こういう裏表の激しい人、強者には平身低頭し弱者を奴隷のように扱う人、が反省することはない。元秘書が実行したように、最も効果的なむごい形で相手に反省を強要するしかないのです。

とはいえ、最後に確認しておくと、以上のことすべては、この宇宙の中にもはやないのであり、過去という場所にもないのであり(「過去という場所」などないから)、私たちの心の中にもないのであって(「心の中」などないから)、ただ「あった」としか語ることができない、「あたかもあるかのようなもの」にすぎないのですが……。

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