「ゆるキャラ」頼みの地方創生には限界がある 100万円使う前に、町の価値を見出せているか

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日本の自治体にも郷土資料館や博物館といった、アーカイブ的な施設はある。ただ、ドイツに比べると目立ちにくく、活用されているとも言いがたい(参考:「地元には何もない」と言われる街に欠けた物)。

もっとも、地元の名物や歴史的人物などをモチーフにすることが多いゆるキャラも「地域のアイデンティティ」や「郷土愛」を表現しているという意味では、アーカイブの役割と近いものはある。ただ、キャラクターである以上は、マーケティング上、人畜無害で、万人から好かれるような存在でなければいけない。そこにゆるキャラの限界がある。

鳥取城「かつ江さん」引退に見たゆるキャラの限界

その顕著な例が、鳥取城のゆるキャラ、「かつ江さん」だ。覚えている人は少ないかもしれないが、ボロボロの着物をまとった血色の悪い女性のキャラクターで、片手にはカエルを持っている。「渇(かつ)え殺し」と呼ばれる秀吉軍による兵糧攻めを受けた歴史をもとに、飢えのためにカエルまでも口にしたという歴史上の悲劇をモチーフにしたものだった。2013年末に鳥取市が公募して選定したキャラクターのひとつで、翌年夏に公開されたものの、3日で引退。「不快」などといった抗議の声があまりにも多すぎたのだ。

「かつ江さん」の作者は地元の歴史をきまじめに表現しただけなのだが、「ゆるキャラ」としての許容範囲を超えてしまったということだろう。

『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか』(学芸出版社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

自治体の地域活性化策におけるゆるキャラとは、例えるならばいかにも見てくれのよい筋肉だけを無理につけたボディビルダーのようなものだ。それに対してアーカイブは華やかではないが、自治体を表現し、存在そのものを確固たるものにするもので、体幹がしっかりしたアスリートのようなものだろう。人々の目をひくムキムキの筋肉も必要だが、体幹がしっかりしていないと、長持ちしないのではないか。私の知る範囲でも、こうしたマーケティングに依存して自治体をPRしていく手法に疑問を持つ行政マンは少なくない。

もちろん、地方創生には、人々の感覚に訴えかけてすぐに効果が出るような取り組みも必要だ。ただ、一方で地味に長期にわたって取り組む事業をおろそかにしてはならない。経済分野にあてはめていえばローカルリソースマネジメントのための「気の長い」投資といったところか。これを怠ると、20年たっても、50年たっても地方は疲弊するだけのように思う。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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