メイ首相は「要らぬギャンブル」で敗退した

悪夢としか言いようがない結末に

なお、既に述べたように、保守党のハードブレグジット路線に与する政党は、北アイルランドのDUPくらいであり、この助力を得て政権を確保する道はある。だが、今後の交渉過程で必要になる法案に関し、野党の協力を仰がなければならない展開も予想され、今までよりは時間がかかることは否めない。限られた時間の中で効率的な交渉が求められていたところ、事態は明らかに時間を空費する方向へ傾いてしまっている。

高まるクリフエッジ・リスク

ブレグジットに関し想定される最悪の結末はEUとの暫定合意を伴わない「なし崩し」離脱(通称クリフエッジ、cliff-edge)であり、在英企業のビジネス環境が一夜にして激変を迫られる事態である。このケースでは、2019年3月末をまたいでEU加盟国としての権利を失ったその日から英国は「普通の国」としてWTO協定に基づく関税や通関手続きなどに則ってEUと貿易することになる。

巨大なビジネスパートナーである欧州大陸との特恵的な通商関係が一夜にして消滅するクリフエッジ・リスクは在英企業が最も回避したい展開である。いわゆるハードブレグジットを支持するメイ首相もそこまでは望んでいない。単一市場や関税同盟から撤退しつつも、あくまで目指すのは「秩序だった離脱(orderly exit)」というのがメイ首相の公式スタンスである。

本来のメインシナリオを具体的に挙げるとすれば、2019年3月末までに離脱に伴う未払い分担金1000億ユーロ(俗に離婚費用)を含めた離脱協定に決着をつけ、そこから先の新たな通商関係を規定する自由貿易協定(FTA)交渉は2019年4月以降に始めるというものだったと考えられる。2019年4月以降の、FTA交渉中(約2~3年間との声が多い)は「移行期間」という名の激変緩和措置を設け、現行の通商関係を維持するという算段である。これでクリフエッジ・リスクは回避される。

しかし、それも大前提となる離脱協定がまとまらないことには進まない。例えば未払い分担金1000億ユーロを踏み倒す相手に対し、EUが激変緩和措置を施してやる道理はない。基本的に英国は守勢に回るしかなく、落とし所もある程度見えているのだから、家計や企業への不安を考えたら早く話を進めるべきなのだが、保守党主導の連立政権ではクリフエッジ・リスクも辞さない超強硬離脱派が幅を利かせる恐れがある。今回の選挙は圧勝の上でその恐れを払拭することが目的だったが、失敗した。

一縷の望みとしては、新たに樹立される連立政権が労働党主導のものとなった場合、中途半端な保守党主導の政権よりはクリフエッジ・リスクが後退すると言われている。その場合、ポンドには買い戻しが入るだろう。

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