医師を志す若者がハンガリーに進学する理由 日本の国家試験受験資格は外に開かれている

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ペーチ大学も同じく日本人医学生が通う大学の1つ

日本の医学部より入りやすいのも学生にとって魅力だ。入学試験は国内で年10回行われており、科目は英語、物理、生物、化学の試験と面接。日本の医学部入試より問題の難易度が低く、倍率は2~3倍程度。卒業までの学費と生活費はあわせて約2000万円。6年間の学費が平均3000万円かかる国内の私立大学医学部に通うよりも安くすむ可能性がある。

ただ、入るのは容易でも、進級や卒業はとても厳しいのが現実だ。授業はすべて英語。1年目から専門授業が始まり、日々の生活は勉強漬けとなる。在学中の学生は、「とにかく試験が多く、つねにpass(及第)かfail(落第)の世界にいる」と音を上げる。中には、土日も含め毎日最低12時間は勉強にあてている学生もいるという。

それでも6年間ストレートで卒業できるのは半数程度。入学前に語学などを学ぶ1年間の予備コースと、帰国してからの国家試験受験期間も含めると日本で医師になるには最短でも8年かかる。

浪人生の受け皿から志望者層が変化

これまでハンガリー医学部留学の道を選んできたのは、日本で医学部受験に失敗した浪人生が主体だった。2006年の開始当初は、留年率も現在より高く、退学する人も多かったという。「退学比率は日本からの留学生全体で3分の1程度いて、多浪生はだいたい上にあがっていけない。卒業には本気で医師を目指す覚悟が必要」(石倉氏)。

近年はこうした志望者層も変わってきているという。国内の医学部に合格していてもそれを蹴って向かう学生や、開成、桜蔭といった有名進学校から直接ハンガリーの医学部を受験する現役生が出てきているというのだ。

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そうした人たちが目指しているのは、グローバルな医師だ。ハンガリーの医学部を卒業すると、EU(欧州連合)での医師免許が手に入る。日本人がEU圏で医師になるのは言語の面などで依然ハードルが高いものの、卒業生の中にはイギリスで医師になった人も実際に出てきている。

また帰国して日本で医師資格を取得してからも、英語で医学を学んだ経験は生かされる。近年は、医療ツーリズムなどで外国人患者の対応ができる医師が求められるほか、大学病院では教授の論文作成の手伝いなどで重宝がられることもあるようだ。

活動の場を日本国内のみに絞るにせよ、世界を見据えるにせよ、医師を目指す日本人学生にとって、海外の医学部へと進むことは選択肢の1つになりつつある。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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