やはり廃案となる可能性が高いトランプケア なぜ米国の医療制度はうまくいかないのか
トランプ米国大統領が推進する「オバマケア(医療保険制度改革)撤廃・代替法案」(通称「トランプケア」)が死(廃案)の淵に臨んでいる。
議会予算局が5月24日に発表した最新推計によれば、トランプケアが施行されると現行のオバマケアに比べ、2026年までに無保険者が2300万人も増える(82%増)。僅差で可決した下院に続き、現在上院議員の間で法案修正の作業中だが、無保険者の急増が問題視されて「ワシントンではトランプケアは"Dead on Arrival"(上院に到着すると同時に廃案)だと言われている」(ニッセイ基礎研究所の窪谷浩氏)。
トランプ大統領が就任した1月以降、世論調査でのオバマケア支持率は不支持率を上回った。だが、それ以前は米国でオバマケアがあまり支持されていなかったのも事実だ。なぜ、米国の医療・医療保険制度はうまく機能しないのが常なのだろうか。
米国は先進国で唯一、医療の国民皆保険を実現していない国だ。高齢者と障害者を対象とした公的医療保険「メディケア」(国民全体の16%が加入)、低所得者を対象とした公的医療扶助「メディケイド」(同20%)を除くと、多くの人は雇用主が提供する民間医療保険(同56%)に入るか、雇用主が提供しない場合は個人で民間保険(同16%)に加入するしか手がない(以上の構成比データは2015年)。
オバマケア導入以前の無保険者は4200万人
こうした中で、メディケイドが適用されるほど貧困ではないが、個人で民間保険に加入する余裕のない低・中所得者を中心に多くの無保険者が存在することが米国の長年の社会問題となっている。無保険者の数は、オバマケア施行前の2013年時点で4200万人(国民全体の13%)に上った。
無保険者の現実は残酷だ。日常的な受診にも事欠き、治療の先延ばしによって重篤な症状にまで悪化、救急救命室(ER)に担ぎ込まれたときにはもはや手遅れというケースもある。一命を取り留めたとしても、1000万円単位の治療費のために家などの資産を売るか、治療をあきらめるかの選択を迫られる。
保険加入者も安心できない。解雇が日常茶飯事で雇用主提供の民間保険に頼る米国では、一夜にして失業と無保険に転落するリスクと背中合わせだ。家族加入なら、子どもたちまで無保険状態になりかねない。またどのような人でも同じ条件が適用される日欧などの皆保険と違い、民間保険ではがんなどの既往歴があれば、加入が拒否されたり、保険料が数倍に値上がりしたりする。一般の中流家庭でもつねに医療・医療保険の問題におびえているのが米国社会の姿だ。
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