不当解雇の「金銭解決制度」導入に潜むリスク 労働問題に取り組む弁護士はどう見るのか

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「そもそも、何のために、金銭的解決制度をもうけるのか。普通、新しい制度を作ることの目的は、現在の制度では解決できない改題に対応するためではないでしょうか。しかし、不当解雇をめぐる課題で求められているのは新たな制度ではなく、むしろ、今ある制度をいかに活用するべきか、という点です。

解雇を巡る争いでは、労働者が裁判手続きまでたどり着くことは、残念ながら少ないと感じています。しかし裁判手続きの中には、通常の裁判以外にも、労働審判、賃金仮払いの仮処分など様々な制度があり、使いやすいものもあります。

中でも、労働審判は、解雇や給料の不払いなどのトラブルを迅速に解決することを目的にもうけられた制度です。解雇事件で職場復帰を積極的には望まず、早期に解決したい場合に適した制度です。実際、労働審判では、解雇は無効であるとして、一定の金銭を使用者側が支払うことで解決しているケースが多いように思います。

このような制度があるのに、なぜ金銭解決制度をもうける必要があるのでしょうか。労働問題で問題なのは、金銭解決制度がないことではなく、今ある制度が十分活用されていないことです」

このような理由から、波多野弁護士は、「労働者側にとって解雇の金銭的解決制度を積極的に求める必要性は薄い」と指摘する。

使用者側が解雇をしやすくなる可能性

「最終的にどのような制度になるのか分かりません。経営側の視点に立って考えれば、ある労働者を解雇したいと考え、その労働者との間で争いになる可能性を予期できた場合でも、金銭的解決という選択肢があれば、解雇への抵抗感が減る可能性もあります。

また今回、検討された素案では、使用者側からの制度の利用申し立てはできないようにすることが盛り込まれたようです。しかし、このルールが変更された場合には、使用者側が解雇をしやすくなり、労働者の解雇を巡る現状は更に悪化する懸念があると思います。

繰り返しになりますが、不当な解雇をされても労働者側に訴訟などの手段が浸透していない現状において、金銭解決制度の導入は、解雇が簡単になされてしまう懸念があります」

波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所

 

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