前川vs官邸、異例バトルの知られざる舞台裏 背景には「文部科学省利権」の争奪戦がある
政府が原子力関係閣僚会議を開き、「もんじゅ」の「廃炉を含めた抜本的な見直し」を表明したのが2016年9月21日。これを受けて高速炉会議が設置され、原子力産業関係者も参加。文科省が管轄していた「もんじゅ」問題はそれ以降、経済産業省が主導することになった。
経産省は安倍首相の政務秘書官である今井尚哉氏の古巣。今井氏は資源エネルギー庁次長を務めたこともある。今井氏の叔父である今井敬元経団連会長も、一般法人日本原子力産業協会会長を務めるなど、今井一族は原子力に深いかかわりを持つファミリーといってよいだろう。
「もんじゅ」の後継高速炉について、安倍首相は2014年5月に訪仏した際、オランド大統領(当時)との間で「民生用原子力分野における協力の強化」を確認し、2030年代に第4世代原子炉ASTRID計画の実施を約束した。
文科省は「もんじゅ」廃炉に抵抗
しかしASTRID計画は日本の負担が大きく、その前途も容易ではない。これを見越してか、文科省は「もんじゅ」廃炉に抵抗を続けていた。有馬朗人元東大総長を座長とした「『もんじゅ』の在り方に関する検討会」を立ち上げ、2016年5月27日に報告書を出させた。その内容は「運転再開に向けた体制を検討することができる最後のチャンス」としながらも、実際にはアリバイ作りの範疇にとどまっている。
そして翌6月には前川氏が文科事務次官に就任。文科省のトップとして、「もんじゅ」問題に取り組まなくてはならなくなったのだ。
ここで前川氏の出自に触れておきたい。同氏の閨閥を見ると、原子力行政と極めて深い関係があるのだ。前川氏の妹は中曽根弘文元文部大臣に嫁いでおり、日本に原子力発電所を導入しようとした中曽根康弘元首相と縁戚関係で繋がる。さらに前川氏が秘書官として仕えた故・与謝野馨元文部大臣は、中曽根元首相の紹介で日本原子力発電に1963年から1968年まで勤務した後、中曽根氏の秘書を務め、政界に転じた人物だ。日本原子力発電とは電力会社9社と電源開発の出資によって1957年に作られた会社で、「もんじゅ」建設にも深く関与した。
奇しくもその「もんじゅ」の廃炉の発表と、前川氏の出会い系バー通いが官邸に把握され、杉田副長官から叱責を受けていた時期が重なっている。そのため、「『もんじゅ』の廃炉を進めるために、前川氏の行動確認が行われたのではないか」との憶測も流れている。
あくまで憶測に過ぎない。しかし、複数の証言によると、前川氏は官邸から見て「扱いにくい人物」だったことは間違いない。そこから見えてくるのは、官邸において強い実権を持つようになった省庁が弱い省庁を喰い尽くしている光景だ。なお加計学園問題で「総理のご意向」を忖度し、文科省に獣医学部新設の圧力をかけたと言われる藤原豊審議官も経産省出身だ。さらに安倍昭恵夫人に付きそう常勤の「夫人付き秘書」のうち3人は経産省からの出向者。官邸では経産省が断トツの勝ち組と言えるのだ。
「総理のご意向メモ」の流出は、こうした勝ち組省庁に対する「負け組」文科省からの反撃なのだろう。前川氏の孤軍奮闘で終わるのか、それとも文科省の現役官僚からさらなる告発があるのか。そのあたりが今後の焦点になりそうだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら