「ほたるの夕べ」が60年以上続いているワケ 椿山荘で楽しめる幻想的な光景

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椿山荘が結婚式場・宴会場としての営業をスタートしたのが1952年。「ほたる鑑賞の夕べ」はその2年後から開催されるようになる。当時は芝生の上に蛍を放ち、屋台が立ち並んで、鑑賞しながら食事ができる素朴なものだったという。現在は庭園を囲むようにプラザ棟、タワー、ホテル棟などとさまざまな建物が建設されているが、開業時は本館1棟のみで、庭園を見渡せるオープンなスペースがあったようだ。

「私も、40年ぐらい前でしょうか。祖父に連れて来てもらったのを覚えています。食券を買ってもらって、メロンのアイスなど好きなものを選んで食べるのが楽しみでした」(イベント担当チーフマネージャーの黒沢啓氏)

藤田観光はその後、フォーシーズンズホテルズ&リゾーツと提携、1992年「フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」として現在のホテルの姿を整えた。一方で、1998年、自然環境保護の観点から「ほたるの夕べ」はいったん中断する。

「その後2回ほどは、“エレクトリックホタル”という光ファイバー製の蛍を使っていました。しかし、やはり本物の蛍がいいというお客様からの声が高かったため、蛍が生息できる環境づくりを含めて、もう一度トライしてみようということになったのです」(本村氏)

人工飼育施設で約1万5000匹の蛍を飼育

庭園内に設置されている飼育施設(写真提供:藤田観光)

そして2000年より、専門家の指導の下、庭園内の沢に流れる湧水の水質・水量を改善するなど、ゲンジボタルが産卵から飛翔まで生息できる環境の整備を始めた。また、庭園内や藤田観光の関連施設などに人工飼育施設を整備し、約1万5000匹の蛍の幼虫を飼育している。

「ゲンジボタルの幼虫はカワニナという貝を食べます。カワニナはきれいな水が流れている環境でしか生息できないので、ホテルの庭園もカワニナが生息できるよう水辺整備には非常に配慮しています。庭園を流れている水は秩父山系の地下水をくみ上げ、沢や池に流しているので、その点では水辺環境は自然の状態です」(本村氏)

蛍は幼虫時代にたくさんカワニナを食べて栄養を蓄え、羽化後は夜露などの水分しか取らない。「ホ、ホ、蛍こい、こっちの水は甘いぞ」という童謡は写実描写だったのだ。

ここで蛍(ゲンジボタル)の一生を説明しておくと、寿命は約1年。6月頃に成虫が生んだ卵は1カ月ほどでふ化する。その後9カ月は幼虫として水中で過ごし、5~6回の脱皮を経て上陸し、今度はさなぎになって土にもぐる。5月頃から脱皮して成虫となり、生殖を行うために飛翔する。成虫の期間は約1週間と短い。上述の人工飼育施設で飼育を行うのは、産卵から上陸する前の終齢幼虫までの間だ。

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