新参のドイツ鉄道会社が半年で破綻したワケ 上下分離・オープンアクセスの「罠」が露呈

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イノトランスで展示されていたロコモアの車両(筆者撮影)

なぜ、ロコモアは破産するに至ったのか。少なくとも、数カ月前のニュースではまあまあの乗車率を誇り、他都市との間を結ぶ計画が進行しているということだった。車両も、今後の乗客増や別路線開設をにらみ、中古車両を少しずつ買い足し、改装して営業に投入していた。中には改装が間に合わず、古い塗装のまま運行されていた車両があったことからも、決して乗車率が悪かったわけではなかったことがうかがえた。

同社も、乗客1人当たりの収入については運行開始以来継続的に上昇していたと述べているが、その伸び幅は想定していたよりも少し鈍く、十分な費用対効果が現れているとは言い難かった。財政難が進んでいく中、投資家とのギリギリの交渉が進められたものの、不発に終わり、最後は準備金が枯渇したことで、破産へと至ってしまった。

欧州域内におけるオープンアクセス法が施行されて以降、これまで民間企業が鉄道運行へ参入して成功した例は、決して多くはない。各国には、すでに既存の鉄道会社、すなわち旧国鉄に相当する鉄道会社が基盤を築き上げており、そこへ割って入るためには、相当な覚悟と綿密かつ勝算のある計画が必要となる。

低価格が売りのリスク

ロコモアは、ベルリン―シュトゥットガルト間を1日1往復、所要時間6時間45分で運行していたが、同区間にはすでにドイツ鉄道の高速列車ICEが2時間おき、所要5時間45分で運行されている。1日1往復しかないうえに所要時間も1時間余計に掛かるのでは、わざわざ選択してもらうためには別の付加価値が無ければまったく歯が立たない。そこで最終的に行き着くところは、運賃となる。

価格表を見ると、ロコモアのベルリン―シュトゥットガルト間の運賃は、購入する時期によって22~65ユーロとある。最安値67.90ユーロ、通常運賃は145ユーロのドイツ鉄道と比較すれば、確かにその差は歴然としている。

こうした薄利多売の超低価格運賃は、乗車率が悪ければ立ちどころに収益が悪化する、という諸刃の剣だ。つねに100%とまでは言わないが、全体的に80~90%程度の乗車率を維持しなければ、収益を上げるどころか赤字へ転落してしまう。前述のとおり、決して乗車率が悪かったわけではなかったようだが、それでも経営維持には足りなかったということだ。

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