新参のドイツ鉄道会社が半年で破綻したワケ 上下分離・オープンアクセスの「罠」が露呈

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 ロコモアで使用された客車内装。1970年代に製造された中古車両で、改装されているが基本的構造はオリジナルのまま(筆者撮影)

加えて、鉄道以外の交通機関の存在も忘れてはいけない。LCCや都市間高速バスなど、鉄道以外のライバルも多い。同じベルリン―シュトゥットガルト間で比較してみよう。バスは、ヨーロッパ各国で急成長を遂げているFlixBusが、昼行・夜行合わせて15往復近くを運行しており、価格は22.90ユーロから、所要時間は経由地によって多少異なるがおおむね8~9時間で走破する。

値段や時間だけ見れば、ロコモアに分があるように思えるが、バスは15往復という圧倒的な高頻度運転が売りで、どの時間帯でも運行されている点は見逃せない。また長時間乗車が苦にならないよう、車内には無料Wi-Fiや電源も備わっている。

一方のLCCはどうか。同区間にはユーロウィングス7往復、エア・ベルリン3往復が運行されている。ユーロウィングスの最安値が31ユーロ、エア・ベルリンの場合は44ユーロとなっているが、所要時間はわずか1時間15分。急ぐ乗客は、間違いなく航空機を利用する。

そもそも運行区間に問題が

総合して考えると、ロコモア社の敗因は、いずれも中途半端だった点だ。フリークエントサービスに勝る他の交通機関と比較して1日たった1往復、所要時間も驚くほど速いわけではないどころか、勝っているのはバスだけ。価格はかなり頑張ったと思うが、あと追加で少々足せば、LCCを利用できることを考えれば、所要時間で5時間近い差がある航空機には太刀打ちできない。区間や料金など、見通しが甘かったと言わざるをえない。

もちろん、ロコモアの利用者が全員、ベルリン―シュトゥットガルト間を通しで利用していた訳ではない。途中ハノーファー、カッセル、フランクフルト、ハイデルベルクなどに停車するので、その短区間の利用客も少なからずいたはずだが、そうなるとなおさら1日1往復では使いづらくて、わざわざ選ぶ利用客も少なかっただろう。

高頻度運転の重要性は、他の国で成果を上げている民間鉄道会社、たとえばイタリアのNTV社(高速列車イタロを運行)やオーストリアのウェストバーン、チェコのレオ・エクスプレスとレギオジェットなどを見れば明らかで、いずれも1時間に1本程度の高頻度運転で都市間を結んでいる。

その点で、所要時間や所有車両数のために1日1往復しかできないベルリン―シュトゥットガルト間というルート選定そのものにも問題があったと言える。

新たなビジネスモデルとして注目を浴びたロコモアだったが、その野望は志半ばにして、はかなくついえてしまった。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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