「子づくり」まで生中継する中国ネットの病弊 行き過ぎた「生中継ビジネス」はどこへ?

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私は、殺害された女性パフォーマーの実家がある湖南省の農村を訪ねた。なんとか探し当てた実家は、レンガでできた長屋の1室。豊かには見えなかった。家は留守だった。近所の人の話から、娘を失った両親が、落ち込んでひっそり暮らしている様子が伺えた。両親の帰りを何をするともなく待っていたら、怪しい者が来たと思われたのか、村人に通報されて警察にお世話になる羽目になってしまった。

駆けつけた警察官は、身分証明書の提示を要求したが、私が日本のパスポートを見せると一瞬動きを止めキョトンとした。意表を突かれたようだった。余所者、まして私のような外国人が来ることはまずない田舎だったのだろう。中国では1度警察にお世話になると、こちらに何の非はなくてもその後の取材は続けさせてもらえず、現場を離れるように要求される。その日もこちらの車が村を離れ、高速道路に乗るのを見届けるまで警察車両がついて来る周到ぶりで、結局両親の話を聞けずに終わってしまった。

殺害された女性は、華やかで簡単に稼げるように見えたネット生中継に、田舎の生活から脱出するチャンスを託したのだろうか。男と逢瀬を重ねてまで求めたいくばくかのカネを何に使いたかったのだろうか。本人が亡くなってしまった今は知るよしもなかった。 

中国政府の管理が強まるなど、ネット生中継には逆風が吹き始めたかにも見えるが、新たなプラットフォーム「夢想生中継」を立ち上げた呉雲松はネット生中継の発展の可能性について「前途は無限だ」と力を込める。

「ネット生中継にはまったく思いもつかない未来が広がっていると思います。ネット生中継はまだ始まったばかりだと思います。2016年はネット生中継元年と言われます。最初の年であり最後の年ではありません」

たとえば、ネット生中継が、将来は「+アルファ」の業界になるだろうと彼は予測する。大気汚染が酷いときは子供が学校に行かずとも、授業を受けられる。パフォーマーが不動産屋に行って部屋を見たり、海外に行って買い物を請け負ったり。そうした例を挙げる呉の頭の中には、すでに明確なビジョンがあるようだった。

目指すは「中国版マードック」

「中国版マードックを目指せる」と意気込む呉雲松

さらに呉が抱くのは、ネット生中継を次世代のコミュニケーションツールに育てようという野望だ。ネット生中継で影響力のあるパフォーマーが生まれれば、伝統的なメディア、つまり今の新聞やテレビのような世論を左右するオピニオンリーダーとなりうる。加えてネット生中継のプラットフォームは、個人と個人、社会と社会をつなぐSNSの機能を備え、爆発的な情報の拡散能力を持つ。呉は、21世紀フォックスやウォール・ストリート・ジャーナルなどを傘下に持つメディア王ルパート・マードックを引き合いに出し、中国版マードックを目指せると意気込む。

「ネット生中継は、メディアとソーシャルネットの特徴を備えていますが、(そのプラットフォームを)本当に作り上げることができたら、インターネットの次の世代になります。そうなれば、ネット生中継の価値が今のインターネットを超えます。一般的には次世代のものは前の世代の10倍の価値を持ちます。誰が次世代を担うのか。私が挑戦してみたい」

こうしたなか、今年に入って興味深い数字が報じられた。北京市の関係部門の調査として、ネット生中継のパフォーマーの3分の1は月収が500元(約8000円 ※初出時の誤表記「800円」を訂正します(5月19日22時20分))以下で、1万元(約16万円)以上の月収を得ているのは全体の1割以下だという。現実はそんなに甘くないらしい。

しかし、そこにチャンスと可能性があるかぎり、今の中国の若者達は突き進む。夢と欲望を吸い取ってネット生中継は膨張を続けている。

宮崎 紀秀 ジャーナリスト

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みやざき のりひで / Norihide Miyazaki

日本テレビ報道局、社会部警視庁担当記者、外報部デスク、中国総局長などを経て現在はジャーナリストとして北京在住。主に「バンキシャ!」「ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」など日本テレビ系列で放送する報道番組にコンテンツを提供。中国がらみのルポを得意とする。

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