ベーシックインカムはAI失業時代の救世主か 世界各地で限定的な実験が行われている
2000年以降、BIに関する議論が再び盛り上がりを見せている背景には、失業や貧困、格差の広がりがある。フィンランドの場合、失業率が8.8%と高止まりしており、特に若年層の失業が問題になっている。北欧の政策に詳しい日本総合研究所の湯元健治・副理事長は、「社会保障は手厚いが、複雑化・多層化しており、どのような給付がもらえるのかがわかりづらい。BIに置き換えることで効率化できるかを確かめる狙いもある」と話す。
加えて近年は、AI(人工知能)の普及により従来型の雇用が奪われる可能性を指摘しつつ、BIの導入を訴える声もある。著書『人工知能と経済の未来』(文春新書)でAI時代の経済政策のあり方を論じた駒澤大学の井上智洋准教授は、「AIの普及により多くの人が失業する時代には、生活保護のように(資力調査などによる)選別が必要な制度は行政コストがかさむ。包括的に全員を救済するほうが早い」と話す。
機械化によって労働生産性を引き上げた経営者が多額の報酬を得る一方で、雇用の機会を奪われる労働者が生じるということは、すでに日々世界中で起きていることだ。AIが導入されればそうした現象が一段と加速し、格差はさらに拡大するだろう。
ベーシックインカムの実現は難しい
しかし、対象を限定しないBIをすぐに実現することは極めて難しいだろう。BI導入への課題は少なくないが、中でもよく議論されるのは、第1に、無条件でおカネをもらえるならば人々は働かなくなるのではないか、という勤労意欲の問題、第2に、すべての国民に食べていける最低限の額を給付するだけのおカネがあるのか、という財源の問題だ。
第1の勤労意欲の問題は、海外でも多く指摘されている。BI賛成派は、「収入を得るための活動だけではなく、ボランティアや地域貢献、家族のための労働など、本人にとって本当に価値があると考える活動に従事するようになる」と考える。
一方で、「働かざる者、食うべからず」という規範に慣れている人々には、嫌悪感を抱かせるかもしれない。BIは貧困層だけでなく富裕層にも給付する制度であるため、なおさら反感を買いやすい。貧困対策としては、勤労を条件に貧困層に対して税額控除をする「給付付き税額控除」のほうがモラルを維持しやすいという声もある。
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