Google検索の「青色」に隠された最強の分析力 世界の勝ち組企業はビッグデータをこう使う

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シカゴ大学の研究者が着目した点は、ウーバーが行っていた価格設定ルールである。ウーバーはサービス利用の需給逼迫を把握するため、需要逼迫指数というデータを集めている。ドライバーの数に比べて利用者が多い場合には、この逼迫指数が大きくなるという意味だ。ウーバーはこの指数が1.25、1.35、 1.45といった「ある境界値」を超えた際には価格を上げる、という特別な価格ルールを実施していた。

このルールに着目すると、この「境界値」の右と左であたかも実験が起こったような状況が生じるのだ。たとえば、横軸に描かれた需要逼迫指数が1.25よりも左にある場合、価格は通常価格の1.2倍に設定されるが、需要逼迫指数が1.25よりも右になった際には価格は1.3倍に設定されていた。つまり、1.25という境界線上の右と左であたかも「価格実験」が行われたような状況が生まれたわけだ。

(出所:『データ分析の力』p.228)

では、この価格の差に消費者は反応していたのか。それを見たのが縦軸に描かれたサービス利用率のデータである。実際に、価格が上昇する地点で利用率が大きく下がっていることがわかる。「逼迫指数が1.25を超える地点で大きく変化するのは価格だけである」という仮定さえ成り立てば、この図から「価格がサービス利用にもたらした因果関係」を調べることができる。

ビックデータを「宝の持ち腐れ」にしないために

以上の例を見てみると、データ分析の力で必要になることは、単に「ビッグデータ」を利用するだけではないことがわかる。データ分析で大切になる心得は、すし職人の仕事に通じるものがある。知り合いのすし職人曰(いわ)く、おいしいおすしを提供するのには最低限必要な3つのことがあるそうだ。

(1)すばらしいネタを仕入れること
 (2)そのネタのうま味を生かせる包丁さばきができること
 (3)目の前のお客さんが求めている味や料理を提供できること

『データ分析の力―因果関係に迫る思考法―』(光文社新書)。上の書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

これを「データ分析」に置き換えると、「良いデータを仕入れる」「データを切り取る角度の高さや切り口のセンスの良さを身に付ける」、そして「分析結果を使う側が求めている問いに答えられる分析結果を示す」という3つの要素が必要ということになる。

「ビッグデータ」に象徴される情報通信革命によって、多くの人が比較的容易に良いデータ(ネタ)を手に入れられるようになった。これはすばらしいことだ。しかし、同時に「データをどのような角度で切るのか」というセンスや考え方を身に付けないと、せっかくのネタを生かす分析はできない。

また、どんなに美しいデータ分析ができても、それがデータ分析結果を必要とする側にとっての問題に答えてくれるものでないと、すばらしい分析結果だけれどもまったく役に立たない。   

ビッグデータを宝の持ち腐れにしないためにも、真の意味での「データ分析の力」を身に付けることが、ビジネスパーソンにとって必須のスキルになりつつあるのである。

伊藤 公一朗 シカゴ大学助教授

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いとう こういちろう / Koichiro Ito

1982年生まれ。京都大学経済学部卒、カリフォルニア大学バークレー校博士課程修了(Ph.D.)。スタンフォード大学経済政策研究所研究員、ボストン大学ビジネススクール助教授を経て、2015年より現職。専門は環境エネルギー経済学、産業組織論、応用計量経済学。全米経済研究所(NBER)研究員、経済産業研究所(RIETI)研究員を兼任、シカゴ大学では、環境政策・エネルギー政策の実証研究を行う傍ら、データ分析の理論と応用について大学院生向けの講義を行う。

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