日本関連のスノーデン文書13本をどう読むか サイバーセキュリティと国際政治

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第9の文書は、2008年11月19日付けで、米国はブッシュ政権のままだが、日本は麻生政権になっている。これは第一の文書と同じく、NSAの部内誌「SIDtoday」の抜粋で、日本駐在のNSA代表者(SUSLAJと略される)へのインタビューである。

SUSLAJは、日本をはじめとするサード・パーティーにおけるNSAの評判は良いとし、日本の防衛省情報本部はNSAと似たような手法を持っているが、冷戦時代のやり方にとらわれているとも言っている。冷戦時代のやり方にとらわれているというのは、無線傍受には熱心だが、有線のデジタル通信の傍受は法的・技術的な制約に縛られており、積極的ではないという意味だろう。文書の後半は日本での経験やキャリアについて語られているだけである。

第10の文書は、2009年3月23日付で、日本は麻生政権のままだが、米国はオバマ政権に代わっている。この文書は青森県三沢基地の三沢セキュリティ作戦センター(MSOC)とNSAの本部が共同で弱い衛星電波を復調するソフトウェアを開発し、高価なハードウェアを使わなくて良くなったと指摘している。

当時のNSAの長官はキース・アレグザンダーで、彼は「全部集めろ」と号令をかけたことで知られている。当時の三沢基地で傍受していたのは16機の人工衛星で、8000以上の信号が飛んでいたという。

サイバー防衛のための協力

第11の文書は、2013年1月2日付けで、米国側はオバマ政権だが、日本では三つの民主党政権を経て、第二次安倍政権が始まった直後である。つまり、民主党政権時代の文書は今のところスノーデン文書では見つかっていないということになる。

この文書では、第2の文書で述べられていた高周波方向探知ネットワークのクロスヘア作戦への日本の参加が2009年に終わったと指摘している。何月に終わったのかは明示されていないが2009年9月に民主党の鳩山政権が成立している。しかし、文書では、日本側が撤退した理由は、クロスヘア作戦が機械による自動方向探知を目指しているのに対し、日本側が予算の関係から手動による方向探知を行いたい意向だったという。日米間で再調整が行われ、2012年7月から再度情報共有が行われるようになった。

第12の文書は2013年1月29日付けで、安倍=オバマ政権の時代である。この文書では、コンピュータ・ネットワーク防衛(CND)に対するSIGNT(シグナル・インテリジェンス)支援を提供する能力構築に関して、NSAが日本の防衛省情報本部を支援する合意を結んだという内容である。これを始めたのは内閣情報調査室のトップである内閣情報官である。

興味深いのは、日本の防衛省情報本部が2人のSIGINT専門家に中国のサイバー活動にフルタイムでフォーカスするよう命じており、米国が中国のサイバー活動を監視する際に使っているSIGINTのセレクターと呼ばれる指標を日本側に提供したというくだりである。そして、NSA側の担当者が日本を訪問し、内閣情報調査室と防衛省情報本部と協議し、中国のサイバー活動に関するSIGINT情報をいかに発展させるか検討したという。

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