たった10秒で起承転結「駅メロ」の奥深い世界 トップ作曲家が明かす発車メロディ制作秘話
――つまり塩塚さんがいい駅メロを作るとしても、また、小川さんのプレゼンが成功しただけでもだめで、両者が重要だということですか。
小川:まさにそのとおりです。鉄道会社へのプレゼンでは、過去の実績、抱えている作編曲家の能力をプレゼンします。うちの場合は塩塚さんを筆頭に数人の作曲家がいるということで、優位に立てているかもしれません(笑)
ちなみに作編曲家の塩塚氏は、駅メロの作編曲家としては日本一の実績を誇っており、採用された曲数はおよそ170。なお、ここで正確な数字を述べられない理由は、駅メロは知らないうちに使用が始まり、そして知らないうちに使用が終わるケースがしばしばあるためだ。
2つの矛盾する意見にもうまく対応
小川:完成した曲については、鉄道会社の各部門から代表して出てくる社員に聴いてもらうこともあれば、大学の教授、名士、若者の代表などに聞いてもらうこともあります。そうすると、こういった方々が普段、ご自身で聴かれている音楽と比較して「頼りない」「暗い」といった意見が出てきます。
塩塚氏(以下、塩塚):なかには矛盾するような2つの意見が出てくることもあるので、修正の際にはどうやって解決したらいいのだろうと悩むこともあります。それに駅メロの作り方は、ヒット曲などの作り方とは違うんですよね。
――では、塩塚さんは駅メロを作るに際してどのようなことを意識しているのですか。
塩塚:僕は、駅メロを手掛ける前にはCMや番組のジングル(番組の節目などに流れる短い音楽)作りに携わっていて、こうした曲作りを通して「短い間に完結する音楽」というものに対する方法論を確立させてきました。10秒以内で関心を引きつけるための音楽です。駅メロは宣伝目的や言葉はありませんが、乗客に注意喚起をし、なおかつ安全に気持ちよく乗車してもらうための音楽なので、ジングルの1つといえます。短時間で人々の心をつかみ、メッセージを伝達するという使命もありますし。ですから、駅メロについても他のジングルの仕事と同様に、短時間でリスナーの心をとらえるメロディ、そして皆さんに愛される「いい曲」を作ることを大前提としています。
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