たった10秒で起承転結「駅メロ」の奥深い世界 トップ作曲家が明かす発車メロディ制作秘話

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――具体的にいい曲というのはどのようなものですか。

塩塚:優しい音色の、自分で口ずさんでしまうような親しみを持てるメロディです。だから僕の曲作りは、長年聴き続けても飽きず、耳にツンツン当たらないというところから始めています。

そして、僕の作品は基本的にシンプルで、音の数が少ないのが特徴です。若い人たちが好むようなリズミックなものにすると格好いい曲になるかもしれませんが、3日で飽きられてしまう可能性もあります。また、駅メロということよりもまずは音楽単体として成立させることが僕の中でのこだわりです。これは作曲の場合でも編曲の場合でも変わりません。

駅メロにも起承転結がある

作編曲家の塩塚博氏(筆者撮影)

――他の分野のものと駅メロで何か違いはあるのですか。

塩塚:駅メロであれ、他の分野の作編曲であれ、それぞれの使命のために、そしてクライアントの期待に応えるため、プロとして懸命に頭をひねって作り出しているので、基本的な取り組み姿勢に違いはありません。ただ、音楽の組み立て方にはやはり違いがあります。駅メロを含むジングルを漫画にたとえれば、4コマ漫画に相当します。起承転結のストーリーを、10秒の中に込めているのです。

駅メロは短いから1コマ漫画なのでは、と思われるかもしれません。漫然と作ってしまえば起承転結がなくなってしまって1コマ漫画ですが、そこは僕の意地とこだわりです。

たとえば曲の長さが4分あれば、それは長編漫画に該当して、小さな起承転結と大きな起承転結を組み合わせたストーリーを描きます。10秒の音楽は、4分の音楽が持つ起承転結のストーリーの縮図だと思っています。

――最近は駅単位での作編曲が増えてきているとのことですが、その場合は現地に赴いて、その土地のイメージを焼きつけてから作業に取り掛かるのでしょうか。

塩塚:正直なところ、ほぼ行きません。その駅で実際の景色を見たからといって、曲やアレンジの中身が劇的に変わるものではありませんから。むしろ音楽としての完成度を高めることのほうが大事だと思っています。

小川:駅のイメージに合うかどうかということは、選ぶ側の判断になります。特にオリジナル曲の場合、「これが駅で流れてくれたらいいなあ」と思ってもらえるようになるまで、われわれはどんどん曲を提供していきます。塩塚さんに作ってもらった曲の中で、その駅に合いそうなものを5~10曲持って行って、もしその中に該当するものがなければ、塩塚さんにもっと頑張ってもらうわけです(笑)。

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