相鉄のJR直通化で「時刻表」が大ピンチ? 時刻表編集部にマニアックな質問をぶつけた

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大内:「それはすでに行っています。先日、復刻販売した1987年3月号と、当時発売されたものを比べてみてください(※写真参照)。2冊とも、まったく同じものですが、復刻版はかなり薄いでしょう?」

確かに、3分の2ほどの厚さに圧縮されていて、軽くなっている。

となると、新たな謎が出てくる。なぜ、時刻表はページ数が増えたのだろうか?

「交通公社の時刻表」1987年3月号(右)とその復刻版(左)。紙質を工夫して厚さは3分の2に

大内:「30年前に国鉄が分割・民営化されてJRが誕生しました。JR各社は、多くの人に鉄道を利用してもらおうと列車を増発しました。長距離列車は年々減っていますが、短い区間の列車は各地で増発。さらに、東京、大阪以外の都市圏でも、平日ダイヤと土休日ダイヤを設定して、地元の利用者が使いやすい鉄道ダイヤにしました」

列車が増えれば、ページ数は増える。土休日ダイヤを設定すれば、平日のみ運転の列車と土休日のみ運転の列車の両方を載せなければならないので、ページ数は一気に増える。

大内:「1987年3月号と、30年後の2017年4月号を比較すると、200ページほど増えています」

今後も、ページ数との戦いは続くのだろうか?

大内:「湘南新宿ラインと上野東京ラインで、首都圏の南北がつながったときも大変でした。山手線や中央線快速と違って、高崎線、宇都宮線、東海道線は時刻を省略できないですから。その意味で今、いちばん怖いのは、相鉄の湘南新宿ラインへの乗り入れですね」

現在、工事が行われている相鉄と湘南新宿ラインを結ぶ「相鉄・JR直通線」は、昨年の夏、開業時期が2018年度内から2019年度下期に延期された。

大内「相鉄沿線の利用者の方には申し訳ないのですが、正直、延期のニュースを聞いてホッとしました。湘南新宿ラインの時刻は原則すべて記載しています。相鉄線から乗り入れる列車は、かなりの本数になりそうですから、それを全部載せるとなると、ページ数のやり繰りが……。非常に頭の痛い問題でした。とはいえ、延期はたったの1年。開業までに解決しなければならない課題です」

消費税率改定は「地獄表」

『時刻表が刻んだあの瞬間― JR30年の軌跡 (JTBのムック) 』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

私鉄の相鉄が便利になれば、JRの時刻を載せている時刻表の編集部が頭を悩ませる。まるで風が吹けば桶屋が儲かるようなこの関係。編集長は頭を悩ませるが、時刻表ファンは思わずニンマリしてしまう、興味深い話題だ。

そのほか、JR線の営業案内のページに記載されている、主要駅間の運賃・特急料金の早見表は、時刻表編集部が独自に表を作成しているため、消費税率が5%から8%に上がったときの確認作業が大変で、「時刻表ならぬ地獄表状態」だったとか。消費税の値上げが昨年、先送りされたのは朗報だった。

時刻表は観光ガイドとしての役割を担う雑誌なので、私鉄や路線バスの時刻が掲載されている「会社線のページ」で取り扱うバス路線は観光地へ向かう路線を中心にピックアップしていること。主な駅の構内案内図の情報が合っているかどうか、主な駅は年に1度ほど、編集部員が見て回っていることなど、編集長にはたくさんのお話を伺った。

当初、締めの一文は「ただの数字の羅列に見える時刻表にも、このようなドラマが隠されているのです!」という決まり文句にしようと思っていた。しかし、気の遠くなるような時刻表作りの困難ぶりを目の当たりにした後で、こんなに安直に記事を締めくくってよいものだろうか。少々後ろめたくもある。

渡辺 雅史 時刻表探検家

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わたなべ まさし / Masashi Watanabe

1975年生まれ。フリーライターとして、週刊誌や月刊誌で記事を執筆するほか、テレビやラジオ番組の構成にも携わる。2009年、国内の鉄道に完乗。時刻表の誌面に載っている"変な列車"や"味のある列車"を探すことをライフワークとしている。

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