EU、選挙リスクよりECBのジレンマが深刻に 理事会は分裂へ、迫る政策遂行の行き詰まり
フランス大統領選挙の4月23日初回投票は紆余曲折こそあったものの、当初予想されたとおりの結果に落ち着いた。5月7日の決選投票は無所属のエマニュエル・マクロン前経済相と国民戦線のマリーヌ・ルペン党首の一騎打ちとなり、おそらくはマクロン前経済相が勝利しそうというメインシナリオが進行中である。極右のルペン氏や決選投票進出が警戒されていた極左のジャン=リュック・メランション氏はともにEU(欧州連合)からの離脱を唱えていただけに、当座の混乱を乗り切ったことは安心材料である。
近年のEUにおいてはこうした政治リスクばかりが注目されやすいが、今回は経済・金融情勢、特にECB(欧州中央銀行)の金融政策をめぐって不穏な空気が漂い始めていることを指摘しておきたい。細かな経緯は今回割愛するが、最近のECB理事会ではハト派とタカ派の分裂色が大きくなり始めていることが目に付く。
景気格差拡大で「古くて新しい問題」が顕在化
たとえば、4月6日に行われた講演の中でマリオ・ドラギECB総裁自身は「インフレ見通しに関するわれわれの認識を大きく修正するのに十分な証拠はない。インフレ見通しは極めて大きな金融緩和の程度にまだ依存している」と述べ、「声明文で一貫して述べてきた内容から離れる理由はない」と市場に漂う引き締めの思惑を払拭しようと躍起になっている。
一方、この講演の直後、イェンス・バイトマン独連銀総裁は「ユーロ圏の持続的で力強い景気回復と物価圧力上昇の見通しを踏まえ、金融政策の正常化をいつ検討するべきか、それに沿ってあらかじめコミュニケーションをどのように調整すべきかを話し合うのは正当なことだ」と述べ、両名が同日に正反対の講演を行ったことが一部で注目された。もちろん、お互いが意識したわけではないのだろうが、理事会の現状を浮き彫りにする一コマであったといえる。
もちろん、ECB理事会におけるドラギ総裁を筆頭とするハト派とバイトマン総裁を筆頭とするタカ派の対立は今に始まったことではないが、最近はその傾向が徐々に、しかし確実に強まっているように見受けられるのである。
理事会の分裂は結局のところドイツとそれ以外の加盟国の実体経済格差を反映したものである。「景気過熱が懸念されるドイツ」と「景気停滞が続く周縁国」という状況に対し、ECBが割り当てられる金融政策は1本しか存在しない。ユーロ発足以来懸念されてきた「古くて新しい問題」が再び脚光を浴びそうだ。
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