メイ英首相が突然の解散総選挙に動いた理由 再び「絶対に負けられない戦い」に挑む

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総選挙前倒しの報道を受けてポンド相場は急伸している。理由としては「総選挙を経てメイ首相が安定政権を樹立するため離脱交渉が円滑に進むようになる」との解説が目立つが、率直に言って疑問である。メイ首相がハードブレグジット方針を年初に表明した時(もしくはそうした方針への憶測が飛び交っていたそれ以前)を振り返ってみれば、ハードブレグジットへの歩みは基本的にポンド売り要因だったはずである。メイ首相が総選挙に大勝するということはハードブレグジットの確度が高まるということに等しく、基本的にポンドは買えないという話になるのが自然である。

本来は売り材料なのにポンドが上昇したのは?

ここでポンドが買われたのは単に「売られ過ぎていたから」だと思われる。例えばIMM通貨先物取引に見る投機筋のポンド売り持ち高は4月11日時点で66億ポンドと遡及可能な1992年10月以降で最大規模にあった。投機取引である以上、どこかで反対売買は必要であり、ポンド買い戻しの手掛かりが必要である。前倒し解散・総選挙を告げる緊急声明やメイ首相の演説、そして結果として実現するだろうメイ安定政権が一時的に好感されただけというのが筆者の基本認識である。今後1年で1ポンド=1.20ドルを再び割り込んでも不思議ではない。

メイ首相の続投やその政権基盤強化がもたらす未来はこれまで市場(ひいては世界)が不安視していたものと何ら変わるものではないことを忘れてはならない。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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