フリーゲージトレイン「試乗」で見えた問題点 2022年開業に向け車両の検証作業は佳境に

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FGTの開発は、以下の4項目を目標としている。
(1)電動台車での安全な軌間変換、
(2)新幹線(標準軌)は270km/hでの高速安全・安定走行、
(3)在来線(狭軌)は直線部で130km/hの安全・安定走行、曲線部で現行特急車両と同等の速度での安全・安定走行、
(4)耐久性評価に基づく保全性・経済性の分析・検証。

このうち、(1)~(3)は2次車を使った走行試験の後の2011年10月、軌間可変技術評価委員会において、「基本的な走行性能に関する技術は確立」と評価された。

軌間変換、および新幹線での走行、在来線直線部の走行では2010年9月に一定の評価がなされたが、急曲線で軌道への横圧が高い点が課題に残され、曲線条件が厳しい予讃線で検証が続けられていた。そして、台車の改良と軌道改良を合わせて現行特急並みの走行性能を達成することが確認され、2011年10月の評価に至ったものである。

磨耗痕の理由は「たわみ」だった

軽量化のためメッシュで試作された座席も一部に設置(撮影:久保田敦)

(4)については、耐久走行試験により検証するところだった。ところが始めてまもなく前述の不具合が発生した。直ちに鉄道総研と車両メーカーで台車の分解調査を行ったところ、車軸の摩耗痕は片側2カ所にあるすべり軸受のうち外側で、狭軌・標準軌いずれにも発生し、摩耗量は標準軌側で大きく最大値0.2mmだった。摩耗痕のある接触箇所は摩耗粉が発生し、グリースが枯渇。また、スラスト軸受(ベアリング)内のオイルシールも欠損していた。

これを受けて2015年3月から原因究明と対策の検討に入り、模型を使った車軸摩耗に関する振動や回転試験、鉄道総研の台車試験台を使った台車高速回転試験、そのほかスラスト軸受の加振試験、車軸やすべり軸受の面圧の解析等を行った。

結果、車軸摩耗のおもな原因は、左右の軸受に車体の荷重がかかる際に車軸にごくわずかなたわみが生じるが、それにスリーブが追従せず、すべり軸受と車軸の接触面の一部で面圧が高まり、そこに高速走行時の衝撃的荷重が繰り返し作用するためと推定された。

この対策として、すべり軸受の接触面の断面形状を曲線的に加工するなどで最大面圧を低減するほか、車軸とすべり軸受の隙間を0.3mmから0.2mmに減少させて擦れの影響を低減させる等を実施した。さらに給脂機能を追加する等で油膜の維持効果の向上を期待している。

一方、FGTでは、歯車と一体の外筒と、車輪と一体の内筒(スリーブ)の間のコロを介してモーター出力を伝達しているため、車輪の回転ガタすなわち部品間の極小の隙間によるズレがある。これに起因する振動がもう1つの課題とされた。FGTの営業速度は270km/hだが、確実な安全・安定走行にはそれ以上の条件をクリアすべきで、試験装置では300km/hレベルでの高速走行安定性試験を行っている。

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