「幼児の死亡率低下と人口抑制は矛盾しない」コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス

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途上国の医療援助の三つの神話

 もう一つのインドの注目すべき成功例は、新生児の最初の数日を家庭で安全にケアできるようになったことだ。現在、驚くほど多くの新生児が感染症にかかったり、母親が出産後の数日間授乳をしなかったために死亡している。NRHMは、地域の保健医療業務従事者を訓練することで、インドの村落における新生児の死亡率を大幅に引き下げることができた。

 こうしたプログラムの成功から、広く信じられている三つの“神話”が誤りであることが明らかになっている。第一の神話は、貧しい人々が病気にかかるのは避けられないというものである。それは貧しい人々は成人に達する前に病気にかかり、死ぬのが運命にあると言っているようなものである。現実には、貧しい人々は決して難病ではなく、どこでも見られる病気で死亡しているのである。そうした病気は、低コストで治療ができるはずだ。何百万という人々がマラリア、肺結核、小児マヒ、下痢、あるいは呼吸器疾患で死亡し、また多くの女性と新生児も出産前後に死んでいることについて言い逃れはできないのである。

 二つ目の神話は、先進国の援助は無駄であるというものだ。この誤った考え方は先進国の無知な指導者が繰り返し主張し、進歩に対する大きな障害となっている。金持ちは貧乏人を非難するのが好きである。なぜなら、それによって金持ちは責任を逃れ、道徳的な優越性を感じることができるからだ。しかし、貧困国は、支援があれば効果的な公共医療プログラムを迅速に実施することができる。最近、貧困国の予算の支出増と先進国の資金援助を組み合わせることで成功した例がある。

 三番目の神話は、貧困国を救うのは人口爆発を悪化させることになるというものだ。しかし、最貧国の家庭は多くの幼児が死んでしまうからこそ、大家族を作っているのである。幼児の死亡率が低下すれば、逆に出生率は低下する傾向がある。そうなれば人口増加率は低下するだろう。

 貧困国、富裕国を問わず誰もが基礎的な医療サービスを受けることができるようにすべきである。先進国の所得のわずか1%を貧困国の生命を救う医療に費やせば、寿命を延ばし、幼児の死亡を減らし、出産時に母を救い、人口増加を緩やかにし、貧困国の経済発展を促進することになる。

 貧困国の公的医療の成功例は増えつつある。そうした努力を支援するコストは低く、恩恵は大きい。今、行動をとらない言い訳は、通用しないのである。

(C)Project Syndicate

ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

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