ただし議会政治には不慣れである。だから内政面では不手際が続いた。これではワシントンでは通用しない。というか、イデオローグはだいたいが不遇な最期を遂げるものだ。吉田松陰、北一輝、大川周明、石原莞爾、みんなそうじゃないですか。
トランプ大統領との関係も微妙になってきた。トランプさんはあれだけ長く経営をやってきて、「股肱(ここう)の臣」みたいな部下がいない、珍しいタイプである。信用しているのは家族だけ。いくらバノンでも、クシュナーやイヴァンカなど家族とけんかしてはいけなかった。そしてクシュナー夫妻は、ゲーリー・コーン国家経済会議委員長、スティーブン・ムニューチン財務長官、ディナ・パウエルNSC次席補佐官など、「ニューヨーク人脈」との連携を強めている。政権のベクトルは、着実に穏健派、現実路線に向かっている。
さらに言えば、このところ「バノン恐るべし」という世論がかき立てられたことが、トランプ大統領の目にどのように映っていたかを考えなければならない。独裁者というものは、得てして有能な部下に嫉妬するものだ。ましてメディアが派手に書きたてるときは。その辺の機微がわからなかったとしたら、バノンもそこまでの男だったということになる。
「安全地帯」にいるペンス副大統領を大事にせよ
逆にその辺のメカニズムを熟知しているのが、ベテラン政治家のマイク・ペンス副大統領であろう。現政権内でただ1人、"You're Fired!"(お前は首だ!)と言われなくて済む安全地帯にいる。それがどれだけ危険なことかをよくわきまえている。だから頭を下げて目立たないようにしている。政治の世界で最後に笑うのはこういうタイプだ。18日から開催される日米ハイレベル経済対話で訪日するけれども、くれぐれもペンスさんを大事にしなきゃいけませんよ。
この手の話はワシントンでは珍しくない。ビル・クリントン当選の立役者、ジェームズ・カービルは生粋のポピュリストだったが、クリントン政権が「まともな」方向に向かったために居場所を失った。ジョージ・W・ブッシュの参謀、カール・ローブは忠誠心を貫いて最後まで生き残った。彼はイデオローグではなく、オタク的な選挙職人だったから。バラク・オバマに勝利をもたらしたデイビッド・アクセルロッドは、当初は重用されたがすぐにワシントンを去った。メディアが注目するような側近は、得てしてろくな目に遭わない。
以下は筆者お気に入りの映画、『愛と哀しみのボレロ』の冒頭に流れる言葉から。
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