従来型の病院は30年後までに消えてなくなる 「負のオーラ」出まくりの病院をどう変えるか
ところが開店してみたら館内人口が4000人くらいのビルなのに、1日に1000杯も売れた。これは、単にお店でコーヒーを提供するというサービスではなく、スペシャルティコーヒーをテイクアウトするというコーヒー文化が受け入れられ始めた証しでした。そこからは日産自動車のショールームや本社、ドイツ銀行など、オフィスビルにどんどん出店していったのです。
「東大病院」に「タリーズ」ができたワケ
次に考えたのが、病院への出店だったんです。
というのも、私には病気の弟がいました。20歳で亡くなったのですが、拡張型心筋症という難病だったのです。その弟が大学病院に入院しているとき、外出はできないので、車いすを押しながら病院内をよく一緒に歩き回っていたのですが、古い病院だったこともあって、院内がジメジメして汚かったんですね。
木下:場所柄を抜きにしても、空間デザインとか含めてと機能性を優先しすぎて、いるだけで滅入ってしまう「負のオーラ」を出してしまってる病院は多いですよね。
松田:そうなんです。で、あるとき弟に、「退院したら何がしたい?」って聞いてみたら、「マクドナルドに行きたい」って答えたんです。健康な人ならマクドナルドのような大手チェーンに行くことをそんなに強く望んだりしないと思う。でも、長く入院していて世の中から隔離されているように感じている人たちは、日常生活こそが懐かしいのです。以前は当たり前のように行っていた場所に強く引かれている。そのことに気づいたんです。
だから、タリーズを病院に出そうと思った。「日常的な空間を病院内に用意してあげたい、殺風景な景色を変えたい」という思いでした。ところが弟が入院していた病院に交渉に行ったら、まったく相手にしてもらえません。大学病院の売店や食堂というのは「利権」が絡んでいて、なかなか新規参入が難しいんですね。
それでもいろんな病院にアプローチを続けていたら、東大病院が出店を認めてくれることになったんです。とても画期的な出来事でしたが、出店したからといって、そんなにお客さんが入るとは思っていませんでした。儲けを出すことが目的じゃないので、赤字覚悟の出店でした。
ところがいざオープンしてみると、初日から行列ができた。患者さんも見舞い客も医療従事者も、みな平等に並んでくれていました。しかも入院中のお父さんと手をつないで並んでいた娘さんが、「パパの好きなコーヒー屋さんが病院の中にできてよかったね」なんて言っている光景に出くわしました。これは本当にうれしかった。
孫:すばらしいストーリーですね。
松田:ありがとうございます。東大病院に出店させてもらったおかげで、いろいろな病院からもオファーをいただくようになりましたし、その後、スターバックスや大手コンビニも、病院内への出店を始めるきっかけになりました。
野尻:まさに日本の病院の風景を一変させた出来事だったわけですね。
馬場:日本の病院って、過剰なまでに悲しい空間になっている。豊かな空間の病院を設計したいと思っても、病院特有の設計仕様に従うと、それがなかなか実現できないんです。
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