JR東が作ったピクルスはなぜ酸っぱくない? 関東、東北各地の特産品から次々と商品開発

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普段はピクルスを食べないため「さすがに“えっ”と思いました」と、歩さんは当時を振り返る。最初は気乗りしなかったが、今後は野菜の加工もしたいと考えていたこともあり、「これも運命だと思い引き受けることにしました」

ピクルス好きにとっては、その酸っぱさこそ魅力の一つだろう。だが、ピクルスを食べない歩さんは、酸っぱくないほうがピクルスの苦手な人でも食べやすいのではないかと考えた。酸味を抑える代わりにバジルの風味を効かせ特徴をつけた。漬け物としてそのまま食べるだけでなく、普通のピクルス同様に細かく刻んでマヨネーズに混ぜてタルタルソースにするなどアレンジは可能な味付けを意識した。

沼田産のパプリカ、前橋産のきゅうりやにんじん、そして渋川飯塚ファームで作ったバジルやディル(ハーブの一種)。群馬県の上越線沿線で採れた野菜のみを使い、「上越線ピクルス」と名付けた。

昨年11月にJR上野駅で開催された群馬県の産直市で販売したところ、あっという間に完売した。「厚切りベーコンやレタスにトッピングして、パンにはさんで食べると最高においしいですよ」。飯塚さん夫婦の会心作だ。

鉄道事業とのシナジーも

3月27日、JR東日本高崎支社が、上越線エリアで行っている6次産業化商品の試供会を開催した。紹介されたのは、上越線ピクルスに加え、パスタやビール、そして化粧品だ。もちろんいずれも地元の農作物からつくられている。

渋川市で明治創業の老舗麺メーカー、叶屋食品が製造する「ベGパスタ」(べじぱすた)は群馬県産の小麦とほうれん草を使用した。「日本人の口に合うパスタにしました」という麺は、うどんのようにもちもちした歯ごたえが特徴だ。ちなみに高崎市によれば、同市は人口あたりのパスタ店が全国的にも多い「パスタの街」だそうだ。

高崎駅に停車する蒸気機関車。JR東は上越線とこのD51をモチーフとした黒ビールを開発した(記者撮影)

月夜野クラフトビールが製造する「上越線ビール」は、「上越線を走るSLの重厚感をコクとうまみで表現した」という。ラベルは「D51」や「C61」と書かれたシンプルなデザインだ。

化粧品「めぐみとなごみ」は群馬県産のこんにゃくとゆずを原料とする。化粧品メーカー、ポーラの調査によると、肌の美しさを競う「ニッポン美肌県グランプリ2016」で群馬県は最下位だ。「からっ風のせいで乾燥肌になる。何とかしなくてはと思い、保湿効果の高い化粧品を開発した」と、JR東日本の担当者は語る。

いずれも駅構内などのJR東日本グループの販売店はもちろん、一部の小売店やネットでの販売を進めている。

JR東日本の冨田哲郎社長は、「当社は首都圏という大きなマーケットを持っているし販売拠点もある。農業生産者と当社が手を組めば、農業を成長産業にしていくことができる」と話す。取り組みで地域が活性化すれば、商品販売はもとより、観光客の増加も見込める。本業である鉄道で得られる相乗効果も小さくないだろう。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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