足元の日本企業の状況を見ると、2016年10~12月期の法人企業統計によれば内部留保が375.1兆円となった。企業はエネルギー価格の下落や円安による交易利得の増加を一時的なものと受け止め、労働分配率を高める動きにつながっていない。人手不足対応で、非正規雇用の賃金は上昇したが、正社員の賃金上昇には勢いがない。安倍政権と黒田日銀は企業の賃上げに期待をよせていたが、今年の春闘集中回答日の結果を見るかぎり、前年比プラス0.3~0.4%程度の小幅な伸びにとどまりそうだ。
2月の失業率は2.8%まで低下したが、失業率が低下しても正社員の賃金上昇に結び付かないのが、日本の特徴である。名目賃金の伸び悩みは実質賃金の減少となり、消費を弱める可能性がある。他方、人手不足対策として、省力化投資やIT投資が活発化しているわけでもなく、アニマルスピリッツが弱いと言わざるをえない。
賃金上昇、販売価格転嫁のサイクルが必要
日銀短観・3月調査が示したのは、世界経済の回復と円安を背景に製造業主体に改善する日本経済の姿だ。2017年度の大企業・製造業の想定為替レートは1ドル=108.43円。回答基準日の3月13日のドル円相場が114円台にあったことを思うと、日本人らしい堅めの想定だが、足元の110円台での推移を見ると、固めで賢明だったようだ。ちなみに、内閣府の2016年度の企業行動に関するアンケート調査によると、日本の輸出企業の採算レート(全産業・実数値平均)は1ドル=100.5円であり、まだ余裕がある。現状程度の為替推移であれば、緩やかな景気回復は持続可能であろう。
それ以外では、雇用人員判断DIが大企業、中小企業ともに1992年以来の不足幅超。その一方で、価格判断DIでは、商品市況の回復と円安で仕入価格判断DIは急上昇だが、販売価格判断DIは伸び悩み。企業はコスト高を販売価格に転嫁できずに、収益が伸び悩む姿がイメージされる。
人手不足という供給制約は、一部中小企業では事業維持を困難にする可能性がある。さらに、人手不足対応による賃金上昇も販売価格に転嫁できなければ、景気の足かせになり得る。日本の成長持続と物価上昇がバランスの取れた形となるためには、民間努力として、持続的な賃金上昇が必要だ。政府の重要課題は、人手不足対応や教育、将来不安を和らげる社会保障改革といえる。今こそ、日本人のアニマルスピリッツを高めていくことで、デフレ脱却への歩を進めるべき時ではないだろうか。
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