繁栄と無縁だったアメリカ白人たちの正体 取り残された街がトランプを大統領にした
これらの状況を踏まえたからこそ、トランプは以下のようなメッセージを発し続けたのである。「アメリカを再び偉大な国にする」「見くびられた貿易政策が国の雇用を奪った」「不法移民は福祉に頼ってシステムを悪用している」 。さらに政治の門外漢というスタンスから「ワシントンの政治家たちはこれらの問題を傍観してきた」と煽り、マスコミにも矛先は向いた。
街の空気が私的な角度から可視化されていくにつれ、トランプがなぜ選挙中にあのようなメッセージを発し続けたのか――その文脈がリアリティをもって伝わってくる。ニューヨークからもシリコンバレーからも決して見えない風景が、ワシントンの命運を握ったのだ。
それは選挙戦術としては優れていたかもしれないし、彼の地の人々が自分の選択に意味を見出したという点においては大きな進歩であったのかもしれない。だが課題を本質的に解決できたのかと言えば、それはまた別の話であるだろう。
貧困地域の課題を解決するには?
著者は半生を振り返りながら、貧困にあえぐ地域の課題を持続可能な形で解決するためには社会資本が必要だと主張する。経済的な価値があるネットワークをもち、私たちを会うべき人に引き合わせてくれたり、価値ある情報やチャンスを与えてくれる――そういう人間関係に基づく資本こそが彼を貧困から救い出してくれたのだと。
本来セーフティネットになるはずの地縁・血縁がリスクそのものになったというのは特殊なケースかもしれないが、世界中において地縁・血縁といったつながりが希薄になり、代替となる可能性のあったSNSは「ポスト・トゥルース」の時代を迎えている。
このような状況下において、何がセーフティーネットになりうるかというのは普遍的な問いかけでもあり、決して対岸の火事とは思えない。世界がこれから直面していく未来的な課題を解決するためのヒントに満ち溢れた一冊と言えるだろう。
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