P&Gが他社に無償で「成功事例」を教えるワケ 成果を追及したら、女性管理職3割になった

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たとえば当社独自の取り組みとして「コンバインドワーク制度」というものがあります。これは、1日の就業時間のうち、社内(オフィス内)で4時間半以上仕事をすれば、残りを自宅でやってもフルタイム勤務とみなす、という仕組みです。これを活用すれば、会議を社内で行い、資料作成などの作業を自宅で行ってフルタイム勤務とすることができます。この制度を導入したことで、時短勤務を使わなくてもキャリアを重ねたいと願い、仕事を続けられる社員が増えました。

社員のモチベーションやロイヤルティが上がる

――昨年からP&Gのやり方を社外にも公開しています。

2016年春から、当社のダイバーシティ&インクルージョンの考え方をセミナー形式でご紹介したり、それについて考えるワークショップをご提供したりしています。当社は研修会社やコンサルティング会社になるつもりはありませんので、すべて無償提供。トレーナーと呼ばれる講師は当社の役員や上級管理職が務めています。これまで、百数十社に受けていただきました。

――ダイバーシティ&インクルージョンがP&Gの強みの源泉である、というお話を繰り返し聞いています。ノウハウを無償で提供することに経営上の合理性はありますか? もしくは、慈善事業として取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

当社は営利企業ですから、これはチャリティではありません。自社のメリットとしては第一に、トレーナーを務める社員のモチベーションやロイヤリティが上がることが挙げられます。研修のご提供先から感謝されることで「P&Gで働いていてよかった」と心から実感できますから。

また、当社が強みを持ち日本の企業社会に貢献できる分野で力を発揮することで、ビジネスの環境全体を底上げすることが期待できます。例えば当社従業員の家族や配偶者の勤務先企業がダイバーシティ&インクルージョンに関心を持ち、取り組まれることは、間接的に当社従業員の働きやすさ、生きがいにつながります。

長年にわたり、P&Gのダイバーシティ&インクルージョン研修の内容は企業秘密でありコアな価値でした。これを、日本の企業社会にシェアさせていただくことで、大きなインパクトとメリットを、社会だけでなく当社自身が享受できる。私たちが提案し、社長のべセラを説得しました。彼が納得しコミットした上で、米本社を説得してくれたおかげで、実現したのです。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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