「27歳男性」が高齢者向け不動産を扱う事情 「年寄りだから借りられない」のはおかしい

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荻窪家族レジデンス。親を看取った後のシニア夫婦が将来を考えて作った住まいで、街で開かれたイベントも複数開催、地域で暮らすことをテーマとしている(写真:筆者撮影)

その後、2015年5月には杉並区に「荻窪家族レジデンス」、2016年11月には千葉県山武市に「むすびの家」と、毎年のように造られており、荻窪家族レジデンスのように複数メディアに取り上げられ、話題になった物件もある。いずれにも共通するのは、従来の、管理者の指示に高齢者が従う施設ではなく、高齢者が主体となって暮らす、一般的な住宅であることだろう。

もうひとつの動きは、高齢者を対象に賃貸物件を仲介しようという不動産会社の登場だ。2015年5月にオープンしたR65不動産もそのひとつ。当時は、立ち上げたのが26歳(現在は27歳)の単身男性だったことだが話題となった。この男性、山本遼氏は荻窪家族レジデンス、むすびの家のいずれもの仲介にも関わっている。

不動産会社5件に断られた80歳の女性

山本氏がR65不動産を始めるきっかけになったのは、新卒で入社した会社に入って3年目の春に担当した80歳の単身女性。山本氏が勤務していた不動産会社にたどり着くまでに5件の不動産会社に繰り返し門前払いを食らったという話に、強く憤りを感じた。

「高齢というだけで自分らしい生き方ができない、好きな場所に住めない。この状態をそのままにしておいたら、自分が高齢になったときにもそんな思いをするかもしれない。だったら、今から高齢者に部屋を貸すのが当たり前の社会にしていきたいと思いました」

彼女のために1カ月近く電話をかけ続けた結果、ようやく貸してもらえる部屋は見つかったが、その経験が原動力となり、山本氏は4年目に退社、起業した。

高齢者に対する山本氏の強い共感の裏には、78歳で亡くなる2年前まで現役で薬剤師として働いていた祖母の存在がある。福祉施設で働いていた母が「あんなに姿勢のよい高齢者は滅多にいない」と繰り返し口にするほど、背筋のしゃんと伸びた人だったそうで、山本氏が、高齢者が元気に働く姿をカッコいいと感じるのはそのためだ。

もうひとつ、母が勤務していた福祉施設でインターンをした経験から、行動が制約される施設での暮らしには疑問を抱いてもいる。だから、施設ではなく、好きに暮らせる賃貸、なのである。

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